安い、かわいい、見事な販促ー中国SHEINの東京店を見たが…

石井孝明
ジャーナリスト
(写真1)SHEIN TOKYO(原宿)の撮影スペース。シンプルで感じの良いデザイン。(混雑して来場者の顔が写ってしまったので、それを避けるために使える店舗写真はこれだけで申し訳ない)(筆者撮影)

中国発のファッションブランド「SHEIN」(シーイン)の存在が目立つ。そこで東京・原宿にあるショールーム「SHEIN TOKYO」をのぞいてみた。安さ、デザインの良さ、見事な販促手法に驚いた。「人権」「中国」などを批判をする人がいても、ビジネスでは「売れれば勝ち」の面があり、同社は成果を出している。戸惑いを覚えながらも、その優秀さに感銘を受けた。

SNSにあふれる情報

日本語でも、外国語でも、ツイッターやインスタグラムなどのSNSを見るとSHEINへの言及が溢れている。「#SHEINTOKYO」「#クーポンコードSHEINTOKYOで最大20%オフ」というハッシュタグと、商品写真が昨年秋から流れ続けている。それもそのはず。店舗に案内があった。一般の人が「SHEIN TOKYO」の店内で、これらの言葉の入った店舗写真をSNSに出したことを店員に見せると、抽選でIT上のクーポンをくれる。10000円の当たり券まである。

YoutubeとSNSには、今ではあらゆる消費財で、人々を購買に動かすインフルエンサーがいる。女性服、アクセサリーで、そうした人たちのサイトやSNS、映像をたどると、昨年秋から頻繁に「SHEINを買いました」と言及し、ほめている。どのような関係があるかはわからないが、クーポンでも与えられたのだろうか。今の時代は、若い世代は新聞を読まず、テレビも見ない。オールドメディアに広告を出すよりも、こうした人と組む方が効果的な広告だ。

「SHEIN TOKYO」を訪問したのは土曜日の午後で、大変混んでいた。店舗には、見栄えのする撮影スポットもあり、そこで写真を撮れる。ネットで検索すると、私のスマホ撮影の写真と同じ構図のものがたくさんあるのはそのためだ。ここは店舗で、試着などができるが、購入は誰もがスマホで行う。正確には店舗ではなくショールームだ。

驚く安さとシンプルなデザイン

(写真2)SHEINサイトの画面キャプチャー。デザインは普通と思うが、異様に値段が安い。

人々の口コミ、つぶやきで観察されるのが「安い」「かわいい」の単語だ。同社商品の特徴はその2つの言葉に要約される。値段の激安さには驚いた。Tシャツが500円前後、アクセサリーが1個100円台。パーティードレスでさえ3000円台だった。子供服も少しあったが、ワンピースが1000円台だ。この価格帯は、それほど余裕のない、日本の普通の女性、主婦にはうれしいものだろう。

説明では毎月数千種類の商品が売り出され、商品の内容は変化していく。ファンは買い続けてしまうだろう。デザインは素人目にも、優れていた。2022-23年の服の流行は色は明るめで、シンプルで機能的なデザインと聞くが、それも反映していた。

私は経済記者として、企業の行動を分析するのが好きだ。SHEINの売り方を見ると「お見事」と驚いた。消費者行動を考え、商品がしっかりしている。決算には不透明なところがあるが(後述)、22年は7兆円の売り上げに1兆円の利益と、高収益が難しいアパレルなのに、そして商品が低価格なのに、利益率が凄まじい。日本のアパレル、繊維会社で、ここまで見事な経営をしている会社があるのだろうか。

ちなみに、シーインとは希音、希望の声の意味という。

日本では伝えられない同社の怪しさ

日本のメディアを見ると、SHEINをほとんど一般メディアは伝えず、ファッションメディアは絶賛ばかりだ。ところが英語ニュースを見ると、SHEINをめぐる情報は全く違う。評判が凄まじく悪い。サプライチェーン、会計、企業ガバナンスの面での批判だが、それらが謎のベールに包まれてよく見えない。

同社の商品の安さの理由は何か。同社によれば、自社工場を持たず、ITを駆使した徹底的な在庫・生産管理と、人工知能を使った流行予測で、安さと良いデザインという特徴を出している。ところが、そうではないという英語メディアの報道ばかりだ。関連企業の生産拠点の多くが低賃金の中国の辺境地域にあるとされる。特にウイグル人の長時間労働、ウイグル地区製の綿花・綿糸の買いたたきによって、この安さが得られているという。

英国メディアは、この問題を熱心に報道している。英国チャンネル4が21年秋に放送した「Inside the Shein Machine」(シーイン・マシーンの内幕)という番組で、ウイグル地区の工場に現地ジャーナリストが潜入した。筆者は番組は未見だが内容を報じたネット記事では、18時間労働を労働者は行っており、換算すると1着の労働者への報酬は6円程度という。

オーストラリアでは、同国の企業の服のデザインに類似した商品が多数見つかり、消費者による不買運動が広がっている。

またSHEINのアプリは個人情報を入力するため、中国政府にそれが閲覧される可能性があるとして、インド政府は2020年にそれを禁止し、EUは調査中だ。

(写真3)SHEINのアメリカの物流センター。同社はアメリカでまず成功した(iStock/jetcityimage

SHEINは米国の若い世代を中心に2019年ごろから人気に火がつき、世界に販売を仕掛けている。中国国内では香港以外であまり活動していない。同社は米中貿易戦争の始まった2018年に、中国の南京からシンガポールに本社を移し、さらに米国に移そうとしている。米国政府は、強制労働での製品の輸入を2022年夏から禁止した。ところがSHEINの店舗販売をしないビジネスモデルだと、小売店を介在しないので個人の輸入扱いとなり、米国では規制を免れているという。(米国の制度の部分の解説は筆者の英語能力の不足で、間違っている可能性がある。)不透明なところの多い企業だ。

ビジネスで批判ではなく学び、そして勝とう

日本では保守派の人が「中国」「人権」「ウイグル」という言葉に反応して、SHEINとそれを買う消費者に怒っている。しかし残念ながら、ビジネスには「売れれば勝ち」の面がある。もちろんそれに私は違和感があるが、現実に商売で相手が勝っていれば、理屈をこねても仕方がない。「SHEIN TOKYO」で楽しむ女性たちを見ると、私がそれを横で喚いても、危ない、商売妨害の、変なおじさんになってしまうので、黙っていた。

もちろん私は同社の人権問題を軽視するわけではないし、その現実を伝えない日本メディア、反応しない消費者は問題と思う。しかし現実の脅威に直面したアパレル業界の人はすでにやっているだろうが、批判だけではなく、SHEINという会社の優れたところを参考にし、自らの行動に活かす、現実を動かすことを私たちは考えるべきだろう。

SHEINだけではない。日本経済は長期に低迷し、企業の多くに元気がない。私たちは「自民党のせい」「財務省のせい」「アカのせい」「中国政府のズルのせい」など他人のせいに、これまでしてこなかっただろうか。「責難は成事にあらず」(SFファンタジー・十二国記)という名言がある。批判の前に現実を動かし、成果を上げることを考えなければならない。そして正しいことをして負けるのではなく、正しいことをして勝たなければならない。学ぶ相手が、謎のベールに包まれた中国企業であっても。

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