秋本事件の一因、メディアの再エネ過剰賛美
目次
秋本被告をメディアは批判
東京地検特捜部は秋本真利衆議院議員を9月27日に起訴した。洋上風力発電の入札をめぐり、日本風力開発の事業に有利な国会質問をした見返りに、同社元社長から約7200万円の賄賂を受領したという収賄の容疑だ。
逮捕の際には、各社とも熱く、秋本被告を批判した。「再エネ汚職真相究明を」(朝日9月8日社説)。「許されぬ再エネの利権化」(日本経済新聞9月7日社説)。朝日社説は「再エネ拡大の「切り札」洋上風力」としながら、「秋本議員の働きかけで政策がゆがめられてはいないか」と指摘した。
2021年12月に国が行った洋上風力の3カ所の入札では、三菱商事が安い売電価格を提示して総取りした。起訴事実によると、秋本議員は日本風力開発などの風力発電会社の意向を受けて、次の入札で「安さ」以外の、工期の速さ、事業者の信頼性を評価するように入札ルールを変更させるように運動し、国会質問などを繰り返したとの疑惑がある。
ところが新聞各紙は洋上浮力をめぐり、おかしな報道を繰り返していた。
メディアの異様な再エネ・洋上風力賛美
朝日新聞は22年2月3日夕刊「洋上風力、価格崩壊の衝撃」という記事で、秋本議員と同じ主張を掲載した。「(この安さで)日本での発電所建設、経営は相当厳しいものになる」と述べ、さらに「国の導入計画の練り直しが必要」「地元からは売電価格が低くなれば、発電会社による地域貢献が手薄になるのではとの不安も」と、制度を批判した。
売電価格が安ければ、国民の利益になるのに不思議な意見だ。風力業界から秋本議員と同じ情報をもらって書いたのだろう。執筆者は(面識も交流もあるので言いづらいのだが)朝日新聞の元編集委員で、(現在は知らないが)日本風力開発系シンクタンクの研究員に退職後に天下っていた。
日経は再エネへの過剰応援を繰り返す。23年9月に大きな紙面を割いて、「日経提言、再エネ7割を目標に」と、夢のような2050年目標の社論を掲げた。ここでも洋上風力の普及を推奨した。一企業のメディアが社論で政策キャンペーンをやるのは、違和感を感じる。メディアの基本姿勢は中立であるべきだ。
同社はかっこいいことを言っている割には営業の醜さも見えた。最近の同紙の紙面はタイアップ広告ばかりで見苦しいのだが、この日はずらずらと再エネ会社の広告が並んでいた。
同社をはじめとして日本風力開発と関係のある、再エネの研究者と称する人たちをメディアは、論評で活用し、積極的に洋上風力の未来を宣伝した。
再エネのデメリットをなぜ報じないのか
2011年の東京電力の福島第一原発事故以来、メディアの大半の論調は原発、電力会社攻撃を中心に据えた。それと同時に再エネが讃えられた。もちろん再エネはさまざまなメリットがあるが、そのデメリットの検証は少なかった。秋本議員の行動を、新聞の再エネと洋上風力への過剰賛美が支えた面があったと思う。
膨らんだ再エネ賦課金の金額は2023年度の予想で4兆7477億円になる。その巨額負担の価値はあるのか。
さらに洋上風力では「国防」の分析が、新聞に欠落している。小野寺五郎元防衛相は8月20日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」で「洋上風力発電は、場所も、どの国が作っているかという資本もよく確認することが一番喫緊の課題」と指摘し、その乱造への警戒を述べた。敵国の監視拠点になりかねないためだ。昨年の風力発電設備(風車部分)の世界シェアは、上位15社のうち10社が中国企業だ。
私は2014年に再エネによる地方の乱開発に警鐘を鳴らした。ようやく、今になって、その乱開発の危険性が世の中に広がっている。太陽光や風力発電によって、人々が乱開発による森林の伐採、土砂災害の恐怖などに苦しんでいたのに、それが放置された。メディアは今になってその問題を取り上げるようになったが、扱いはあまりにも小さく遅い。陸上の太陽光、風力の建設可能領域が飽和状態になって、洋上風力が注目された面がある。しかし過去の再エネの問題を検証しなければ、失敗を海の上でも繰り返しかねない。
国の政策とビジネスの行末を国民に考えてもらうために、エネルギーをめぐる情報を正確に提供するのがメディアの役割のはずだ。それなのに「反原発」「再エネ賛美」「温室効果ガス排出ゼロ」のイデオロギーに囚われ、「ゆがめられた」像を作り出していないか。変な自己主張に走っていないか。
「次の秋本」を産まないために、国民に役立つ正確な報道を
そういうメディアのおかしな姿勢が、秋本氏のようなエネルギー政策で金を不法に稼ぐ人物を増長させたのだろう。彼は自称「再エネに精通」「原子力は時代遅れ」など放言していた。その危うさを見ると、今回の逮捕は「やりそうな人物だ」と私に意外感はない。
今回の疑惑事件は小物である秋本議員の起訴で終わりそうな雰囲気だ。しかし、それだけではいけない。再エネ政策の見直しに結びつけなければいけない。
次の秋本議員や、ゆがんだ再エネ政策を産まないために、報道の役割は大きい。メディアは正しい情報を淡々と伝えてほしい。しかし、これまで期待して無理だった。これからも無理そうだ。
石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com
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