原子力・電力での河野大臣への不安ー異様な敵意の解消を

石井孝明
ジャーナリスト
河野太郎氏(筆者撮影)

河野太郎・自民党衆院議員、内閣府特命担当大臣への世間の注目度は依然として高い。ポスト岸田の声もある。しかし、電力・原子力業界と政策に向けられる「異様な敵意」(大手エネルギー会社幹部)と、再エネへの過剰なテコ入れが気がかりだ。

「核燃料サイクルを潰す」と公言

少し古い話だが2016年末に、私は河野氏にインタビューをした。そこで電力業界に対する敵意に驚いたことがある。当時、河野氏は安倍政権で行政改革相を離任して一議員に戻っていた。この時は専門誌の取材で、強いメッセージを伝えようと思ったのだろうが、あまりにもエキセントリックだった。

「電気事業連合会は『反社会勢力』と同じだ。任意団体であり、運営や財務内容も公開していないのに、政治に影響を及ぼそうとしている」

「私は反原発ではないが、原子力政策の根幹である核燃料サイクル政策は間違いだ。国民に膨大な負担を与えるのに推進されている。この政策を潰す。そのために首相になりたい。首相なら国策を動かせる」

「私は情報を公開し合理的に政策を進めろと、当たり前のことを言っている。それなのに電力会社や経産省が反発してくる」

こんなことを言っていた。政治家としては暴言だ。

業界は「河野氏の一挙手一投足」を注視

河野氏は以前にも外務、防衛、ワクチン担当など、注目される大臣職を歴任している。安倍晋三、菅義偉、岸田文雄の3代の首相が評価し、SNSのツイッターのフォロワーの数も2月末で268万人と国会議員トップであり、国民の注目度も高い。

そして今、河野氏は消費者相として、電気料金の上昇を問題視している。今年2月には、家庭向け電気料金の値上げを経済産業省に申請している大手電力4社を、首脳を呼びつけてヒアリングした。値上げの認可過程での聴取は異例だ。メディアは、彼の発言を大きく取り上げ、河野氏を支援している。

今回の値上げ申請は、決して大手電力が不当な利益を得ようとして行うものではない。昨年から歴史的な燃料費の高騰、円安、さらに原子力の停止で、電力会社は軒並み22年度は赤字だ。その規制料金分野で、値上げをしようというものだ。

しかし河野氏は、値上げに絡んで事業者を攻撃している。ちょど今、大手電力会社による価格カルテルや顧客情報の不正閲覧問題が世間をにぎわせている。それを会見で言及し「電力はけしからん」と述べていた。

これはいつもの河野氏の手法だ。世論とメディアを操り、相手を揺さぶり、自分の望む着地点に誘導しようとする。彼は、ただ騒ぐだけの無能な野党議員と違って、物事の動かし方、権力の使い方を理解している賢さがある。「河野氏の一挙手一投足をかたずをのんで注視している」と大手電力幹部は言う。

しかし前述のようにそもそも業界への敵意を持つ人が、国家権力を背景に介入を行うのは、行政の中立性、公平性が疑われる。河野氏はその役職ごとに電力・原子力の無駄遣いを攻撃、再エネを支援する動きをしてきた。「世論やメディアを煽って電力業界を悪者にして痛いところを突いてくる。彼は単純な反対派と違って怖い」と、同幹部は苦々しげに河野氏の態度を批判していた。今回の騒ぎでも、そんな気配を感じる。

「日本語わかるやつをだせ。俺の言ってることがわかんねえのか」。再エネに消極的だと河野氏が判断した資源エネルギー庁幹部を怒鳴りつける2021年の内閣府大臣時代の映像も、週刊文春によって世間に流布している。既存エネルギー関係者への河野氏の敵意は、前述の2016年のまま継続中のようだ。

自民党内にくすぶる反発

こうした河野氏の電力・原子力への敵対姿勢には反発も大きい。2021年9月の自民党総裁選挙で、河野氏は岸田首相に敗れた。原子力施設が立地する自治体は全国で12道県になる。これらの地域の自民党支部、国会議員はそろって河野氏に投票せず、その地域の党員票は伸びなかった。河野氏は「反原発ではない」と繰り返したが、これまでの態度と発言をみれば原発嫌いは明らかであり、核燃料サイクルの未来、原子力テコ入れには沈黙した。これらの地域の政治家も自民党員も反発した。

そして河野氏は政界で孤立気味だ。麻生派に属するが、エネルギー政策に理解の深い同派の甘利明・前自民党税制調査会長や山際大志郎・前経済再生相は、河野氏のエネルギー政策を公然と批判していた。派閥トップの麻生太郎元首相も河野氏を強く支援しなかった。菅内閣では再エネ振興と脱原発で協調して2人で「KK」と呼ばれた、小泉進次郎・前環境相も人気は現在急降下している。

河野氏の電力・原子力ムラへの批判には、確かにうなずける部分もある。ところが、その過激な発言・行動ゆえに攻撃性が目立ち、感情的な対立構造に陥りがちだ。「河野さんがこちらを潰しに来ているのだから、当然強く反発する。落ち着いて冷静に対話をする意向はあちらにない」と前出の電力幹部は話す。

河野氏は、自分の総裁選の敗因を公には分析や公表をしていない。しかし河野氏の側近議員と話したが、「党内を説得させるエネルギー政策を打ち出さなければ、天下取りは無理」と見ていた。河野氏は原子力・電力業界と無駄な対立をすれば、政治家として自分がもう一段高い場所に上がれないことは十分承知しているだろう。

原子力・エネルギーで河野氏は対話をしてほしい

河野氏は、聡明な政治家だ。日本に原子力が必要であり、その体制が核燃料サイクルによって組み立てられていること。それが米国などとの協議の上で成立していることは、重々承知しているはずだ。

核燃料サイクルは、核兵器の材料になりかねないプルトニウムを、使用済み核燃料から分離し、それを加工して再び原発の燃料にするという政策だ。余剰プルトニウムを持たないことは米国など核保有国との約束だ。勝手に日本が核燃料サイクル政策を中止したら、日米同盟を含め外交関係を揺るがしかねない。彼は2016年に、その取り扱いを決めた日米原子力協定の更新の際に、外務大臣だった。この仕組みの見直しに動くかと警戒されたが、手を出さなかった。

河野氏が電力・原子力問題について、個人的な思いを封印し、岸田政権の閣僚の一人としてエネルギー関係者と建設的な対話を進めてほしい。また過剰な再エネ振興の態度ではなく、現実的なエネルギー・原子力への考えに修正してほしい。感情的な対立ではなく、国益にかなう未来づくりを行うことを切に望む。このまま対立をするのは、誰にとっても不幸だろう。

態度を変えなければ…。日本の行く末は任せられないし、そもそも自民党でこれ以上、支持を集められない。

石井孝明

経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

付記・河野氏の批判する核燃料サイクルのプラス面は、記事「核燃料サイクル、施設完成が迫る-原子力活用が進む期待で解説しているので、ご一読いただきたい。

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