原電敦賀2号機、規制委「活断層判定」の異様さ(上)-奇妙な審査

石井孝明
ジャーナリスト
日本原電敦賀2号機(2015年 石井撮影)

原子力規制委員会は11月13日、日本原子力発電の敦賀発電所2号機(福井県敦賀市)について、規制基準に基づいた安全審査を不合格とする原子力規制庁作成の審査書案を了承した。

原子炉の下に活断層がある可能性が否定できないと認定したためだ。この審査は、一企業の財産権を行政が侵害するなど、さまざまな問題を持つ。これを解説して、原子力規制の問題点を指摘したい。

延々と続いた活断層の審査

敦賀2号機は、国による建設の許認可が出て建設され、1987年に営業運転を始めている。その後に、敦賀発電所の敷地の中にある浦底断層が、かつて地震で動いた活断層と評価された。浦底断層の近くにある断層、審査では便宜上「K断層」と呼ばれているものがある。このK断層が、活断層かどうか、2号機の原子炉の下にある破砕帯(岩盤の割れ目)に続くかが、これまで審査で議論されてきた。

以前から日本の原子力発電所の規制基準では、活断層の上には原子炉などの重要な施設の設置を認めていない。2011年に起きた東京電力の福島第1原発事故を受けて、その反省から原子力規制の見直しが行われ原子力規制委員会が設置された。

そして原子力発電所の運用や設備についての新規制基準が作成され、13年から施行された。規制委の8月の委員会では、審査チームの活断層とする結論に異論は出ず、全会一致の了承となった。その後の会見で山中伸介委員長は「決断に迷いはない」という奇妙な発言をした。審査に主導的役割を果たした規制委員で地質学者の石渡明氏は今年9月に退任してしまった。退任会見で「(判断に)問題ない」と強調して委員会を去った。原電は引き続きK断層に関わる追加調査に取り組む意向を示して、審査の継続を求めた。しかし規制委は応じない。

こうした一連の規制委員会の審査活動に私は三つの問題があると思う。審査の根拠となる基準の妥当性、審査内容の妥当性、審査の仕組みの妥当性だ。

太古の地層状況を議論する奇妙さ

第一に基準の妥当性を考えてみる。それがおかしい。新規制基準では、活断層の上に原子炉の主要設備を建ててはいけないとされる。新規制基準の施行ルールでは、活断層とは、「12万~13万年前から現在までに動いた断層」とされる。13万年前とは、現生人類が「ホモサピエンス」という種になって世界に散らばり始め、現在からは想像することも難しい太古だ。古い地層ほど地震の有無を示す証拠は少なくなり、推測の要素が大きくなる。そのために審査は難航した。

このルールも無意味だ。原子炉の近くに活断層があったとしても、補強でその安全性を高めることはできるだろう。米カリフォルニア州にあるディアブロ・キャニオン原子力発電所は、1985年に1号機、1986年に2号機が稼働した。その後原子炉近くに活断層が発見された。米国の規制当局、学者・専門家、そして発電会社側が共に安全対策を考え補強対策をして、現在も運用されている。これが常識的な対応だ。

活断層を規定する厳しいルールを設定したのは、2012~14年まで原子力規制委員を務めた地震学の研究者である東京大学名誉教授の島崎邦彦氏とされる。彼は今、反原発派の活動に参加して原子力発電の危険性を訴え続けている。このような立場の人が関与した基準は、信頼が保てず、公正性、合理性が疑われる。

この基準を放置した規制委、また政治家や他の行政機関の怠慢は批判されるべきだ。

「悪魔の証明」を求める

第二の問題は、原子力規制委員会・規制庁による審査内容だ。常識から判断して、決定におかしさを感じる。規制委は、2012年から破砕帯の有識者会合と称する法律上根拠のない組織を作り、各原子力発電所の地層、活断層を判定させた。

当時の反原発の風潮の中で、反原発活動の政治活動をしている地形学、地震学の学者がそこに参加した。この委員会では、志賀原発(石川県)、東通原発(青森県)の下に活断層があると指摘した。しかし後になって規制委はそれらの原発の下の破砕帯は、活断層ではないと判定している。このように人の判断次第で活断層の認定は変わる。

敦賀2号機では、この有識者会合による議論は混乱した。そしてK断層が活断層であることを「否定できない」というあやふやな結論が2015年に出た。その結論は参考にとどまり、原電の新規制基準に伴う申請は認められ、規制委員会、規制庁による審査が行われた。しかし、そこでK断層の問題が再び蒸し返された。

私は2012年から現在まで、有識者会合、規制委員会、規制庁による地質をめぐる審査内容を部分的に聞いた。原電の出す資料に「可能性がある」という返事を行政側が繰り返すだけで、意味のある議論が行われていたとはいい難い。無意味な議論を聞き続けることに、苦痛さえ感じた。

実りある議論をするなら、規制当局側が、「これを証明したら活断層ではないと示せる」と基準を示す、もしくは規制をされる原電と一緒に考えて審査のゴールを設定した上で、それに向けて審査をするべきだろう。

しかし原電側が何を出しても規制当局は「可能性がある」「否定できない」という答えばかりだった。これは「悪魔の証明」を規制当局側が求めているのと同じだ。これは論理学の言葉で「存在しないこと」を証明するのは非常に難しいことを言う。

危険側に傾ける判定を連発

奇妙な判断の例を示してみよう。問題のK断層は上方から図を見ると蛇行している。そしてその近くから破砕帯が延びている。これが原子炉を壊すような振動や地盤のズレを起こしかねない一体で動く活断層なのか。素人の私が考えても疑問が残る。

原電は数十メートルの巨大な調査溝を掘って地層や断層の様子を精査した。しかし場所によっては、約40年前の建設工事で土地が削られて地層が存在しない。それを規制当局は「活断層の可能性が否定できない」根拠の一つにした。K断層は、その削り取られた地層で、地震を起こした痕跡が残っていたかもしれないという言い分だ。おかしな強弁に思える。

別の例もある。原電は地層の年代を推定するために光ルミネッセンス年代測定という手法を用いた。そして焦点となった破砕帯の作られた年代が「13.3万年(誤差0.9万年)」という結果を出した。13.3万年と判断されれば、規制基準に適合する。しかし規制当局は誤差を考慮すれば13万年前より新しい時期に作られた地層の可能性があるとして、合格の判断材料にしなかった。

規制と事業者の意思疎通の悪さ

規制当局は敦賀2号機の審査で、出された資料のほぼ全てについて危険の方向に判断を倒し、一部は想像を含んだ強引なものだ。このサイトを危険と認定する意図が先にあるように思えてしまう。

そして規制当局のコミュニケーションも下手だ。2020年2月に規制委側が「原電がデータ書き換えをした」と批判した事件があった。規制庁の審査担当者が19年10月の審査会合で、「最新の形で審査資料として提出してほしい」と指示した。

ところが規制庁と石渡明規制委員の意思疎通が悪かったのか、石渡氏は「ボーリング柱状図」の記述を原電が無断で書き換えたとして、審査を一時止めてしまった。そして規制委・規制庁側は一方的に原電が悪いかのような広報をし、メディアは原電の言い分を伝えなかった。

「(下)動かぬ政治」に続く

石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

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