首相有力候補?小泉進次郎氏のエネルギー・環境問題での奇行を振り返る

石井孝明
ジャーナリスト

小泉進次郎衆議院議員・農水大臣が、石破茂首相の辞任後、次期首相の有力候補の一人になっている。私はエネルギー・環境問題を取材し、彼の奇妙な言行に戸惑ってきた。

天の声で政策決定?異様な発言をする小泉氏

小泉氏は安倍内閣、菅内閣で2019年9月から21年10月まで、環境大臣を務めた。日本政府は21年4月22日、関係閣僚会議を開き「30年度までに温室効果ガスを46%削減する」と決定した。気候変動サミットに合わせた国際公約のためだ。この公約は今でも生きている。

同23日放送のTBS系の『NEWS23』で小泉氏がインタビューに応じた。「46%に設定した根拠」について、小泉大臣は両手で「浮かび上がる」輪郭を描きながらこう語った。

「くっきりとした姿が見えているわけではないけど、おぼろげながら浮かんできたんです。46という数字が」

(写真1)取材に答える環境大臣当時の小泉進次郎氏(TBSから。21年4月)

一人で数値目標を決めたとテレビの前で豪語

この発言は三つの問題をはらむ。

第一に、つまり国の政策、その数値目標を、神がかった個人の妄想で勝手に水準にしたと主張した。異様という感想しか抱けない。

第二に、彼は誤ったことを言っている。46%の削減は、当時の菅義偉首相の主導した「2050年までにカーボンニュートラル」の政策を反映したものだった。政府の合議で決まった。小泉氏と同じく、目標設定を担当した梶山弘志経産相は「総理の決断で発表されたもの」と説明。その水準についても、これまでの政策アプローチでは下限から上限(今回は40%~45%)の間の中央値をとるところ、できるだけ上限に近い数値をとり、欧米とそん色のない野心的な目標に設定したと強調した。ちなみに、梶山氏はエネルギー問題に精通し、かなり有能な政治家・大臣だったと、私は評価している。

取材によると、梶山氏は46%に固執する小泉氏と閣内で対立し、それより下の水準を主張した。しかし菅首相の上積みの示唆もあり、渋々認めたという。

つまり、この国家目標は、小泉氏一人で決めたわけではない。彼が影響を与えたとしても、言わぬが花だろう。それを一人で決めたようにいうのは、菅首相をはじめ、他の政治家のメンツを潰す発言だ。そういう空気の読めないところが彼にはある。

気候変動問題の複雑さを理解している形跡なし

第三に、気候変動問題での温室効果ガスの削減数値目標の問題の重さ、複雑さを小泉氏は全く理解していない。

温室効果ガスの発生はエネルギーの生産、経済活動と絡んでいる。経済活動が活発になれば、電力や輸送用エネルギーは増えてガス排出は増え、経済成長の中で削減は難しい。温室効果ガスの削減を国内対策で行えば、雑な試算だが1%の削減につき1兆円前後のコストがかかるという研究もある。46%の削減のコストは国内対策だけで行えば、数十兆円単位だ。海外から排出権を買って、それをカウントする方法もある。税金を「ガス」のために、外国に流すのは馬鹿馬鹿しい。

このように重大な問題であるにもかかわらず、小泉氏は温室効果ガスの削減のコスト、日本経済への影響を真面目に考えていない。温室効果ガスの削減問題は、経済のルール作り、国際的なパワーゲーム、主導権争いの問題だ。

そもそも各国は、かなりずるいことをして、温室効果ガスの削減目標を膨らませている。日本の経済・政治面での競争相手である中国は、そもそも削減目標を定めていない。「2030年までにピークを迎え、2060年までに実質ゼロを実現できるよう努力する」という曖昧なものにしている。経済への悪影響を真剣に中国共産党の政治指導者が考えているのだろう。

日本だけが真面目に削減目標を設定し、負担を引き受けるのは、あまりにも愚かしい。1997年に合意した京都議定書体制は、日本が過剰な負担を一国だけ負い律儀に履行したのに、2010年に崩壊した。この経緯を小泉氏は全く知らないようだ。

つまり、行動がおかしすぎる。そしてこのような奇行は、彼の関係するさまざま場面で見ることができた。

勉強せずにかっこいいことばかり

小泉氏の発言も、冷静に聞くと「言語明瞭意味不明」のものが多かった。彼は、環境大臣就任直後に、19年9月22日に開かれた国連の気候行動サミットに参加した。その際、「気候変動のような大きな問題は楽しく、クールでセクシーに取り組むべきです」と発言し、騒ぎになった。「セクシー」という言葉に誰もが違和感を持った。そして内外の記者との懇談会で、「その具体策はと」聞かれると、きょとんとした顔をしてその方法を答えられなかった。

またテレビカメラの前でこのサミットの抱負を聞かれて小泉氏「今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけない」と言った。何を言っているのかわからない。

「今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけない」と発言した小泉氏、(19年10月、ANNニュースから)

彼は福島原発の処理水問題でも何もしなかった。これは環境省と経産省が主務官庁で、彼は行政の責任者だ。

その前任の原田義昭環境相は、政治リスクを背負って、処理水の海洋放出を政治議題にした。ところが小泉氏は。就任直後の会見でその放出を「いかがなものか」と言い。その後沈黙してしまった。小泉氏は同時期に温暖化問題で、メディアに頻繁に登場しているのに、意識的にこの問題から逃げていたとしか思えない。この問題は、菅首相が主導した。菅氏はその首相在任中に小泉氏をかわいがったが、小泉氏の仕事を肩代わりした。

彼が国民的人気を落とした政策の一つのは、小売店での買い物用ビニール袋の無料提供を撤廃したことだった。これも、環境保全上、あまり意味がないと指摘されたのに、彼はその強行の中心になった。私はビニール袋をゴミ捨てに活用してたので、彼の行動は迷惑だった。今も影響している。

発信力はあるが、重職を任せて大丈夫か

温暖化問題は「かっこいい」が、一方で汚染水問題は当時、批判必至の「政治的に難しい問題」だ。つまり、小泉氏は「かっこいい」ことだけに熱心だ。それでいて問題を深く勉強していない。彼の政治家としての資質を疑う。

父親の小泉純一郎元首相は変わった人だったが、政局と政策のポイントを押さえる異様な勘の鋭さがあり、膨大な読書で勉強していた。進次郎氏にはその凄さもない。

日本の大臣職は、官僚機構がきっちりあるので、それほど自由に動けない。しかし、小泉氏は政治主導でこれだけ任期中に行動した。彼には目立てる力は確かにあるが、その行動のピントは外れていた。

残念ながら、小泉氏はエネルギー問題のこれまでの行動では評価できない。発信力はあるものの、必要のないことで無駄な働きをして、周囲を混乱させている。そして必要なところでは働かない。農水大臣になって奇行は減ったが、彼の本質は変わったのか。私は信用できない。

小泉氏がその態度を改めなければ、これ以上、公的な仕事をさせない方が良いだろう。もし首相になれば、彼による混乱は、エネルギー・環境問題だけではなくあらゆる分野に広がる。

石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

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