原子力容認へ微かに世論が変わる―調査を分析
目次
原子力をめぐる継続した世論調査を分析する
日本原子力文化財団が2006年度から継続して調べている「原子力に関する世論調査」の2022年度版がこの5月に発表された。(リンク)
東京電力の福島第一原発事故から、原子力への不信感が非常に高い状況が続いた。ところが21年度から状況に変化が生じ、今回の22年度には、原子力に対する見方は厳しさが残るものの、目先の停電危機、電力不足を受けて一時的な活用をすべきという考えが増えている。多くの人が感じていたことが、数字で示されたわけだ。
福島事故を受けて、原子力をめぐっては、さまざまな意見はあろう。世の中の大半の人は福島原発事故の衝撃から、原子力にいまだに懐疑的だ。しかし目先は原子力を活用すべきと考える人が増えている。その部分、つまり短期的な視点で、目先の活用で社会的合意を得られる可能性があると私は、この結果を受けて考えるようになった。
改善する原子力のイメージ
この調査では、18の質問を行なっている。その中から、「原子力発電の利用」に関係するテーマ3つを見てみよう。回答者は15~79歳の男女1200人で、全都道府県から無作為抽出された人々だ。昨年(21年)の10月に行った。
原子力発電に対するイメージへの回答(複数回答可)を示す(問1)。肯定的な意見をピックアップすると、「必要」が31.1%、「役立つ」が25.3%と、福島事故から最も高くなった。(図1)
一方で、否定的なイメージへの回答だと、「危険」が61.5%、「不安」が48.8%、「複雑」が40.0%となっている。「危険」「不安」は前年とほぼ同じだが、複雑がここ数年増えている。
人々の原子力への印象は、少し改善していることがうかがえる。
電力価格上昇が関心を高める
「エネルギーで関心があるテーマ」への設問への回答は次のとおりだ(問3)。
「地球温暖化」が52.8%と多かったものの、次の「電気料金」が48.3%、3位の「日本のエネルギー事情」が39.1%、4位の「電力不足」が38.9%、6位の「災害による大規模停電」が25.3%となった。「日本のエネルギー事情」は22年度から新しく聞いた項目で比較はできないが、その他の推移を見ると、「電気料金」「日本のエネルギー事情」「電力不足」「停電」は、いずれも関心が増えている(図2)
電気料金の高騰、電力不足、停電危機に直面し、人々の意識が変わったことを反映したものだろう。
原子力活用に対する厳しい見方は変わらず
原子力発電の利用に関する考えはどうだろうか(問8)。もっとも多い意見は「徐々に廃止」44.0%、次いで「わからない」28.8%。積極的な原発利用層である「維持」「増加」はそれぞれ 12.0%、5.4%となった。一方、「即時廃止」は 4.8%にとどまった。
原子力エネルギーをめぐる不信感は社会に根強く残る。それでも、即時廃止は東電事故以来最も少なく、肯定的意見はここ数年には漸増している。
目先の原子力再稼働についてはどうだろうか(問9、図3)。「原子力発電の再稼働を進めることについて、国民の理解は得られていない」という問いに「得られていない」が46.0%と、「得られている」の4.5%を大きく上回り、国民の視線は厳しい。
しかし「電力の安定供給」「地球温暖化対策」「日本経済への影響」などの理由を背景に、原子力発電所の再稼働を求める人が、ここ数年増えている。「電力の安定供給のために原子力発電の再稼働が必要」問という人は、35.4%に達した。
このほかの調査でも、原子力の最終処分の必要性で認知は広がっていた。また信頼できる情報は少ないと感じる人が多かった。
「目先は活用」で合意を作り出せる期待
この結果を見ると、ウクライナ戦争などエネルギーに影響を与える国際情勢の変化、日本国内の電力供給の混乱を前にして、人々はエネルギー問題を冷静に受け止め、原子力のあり方を考えようとしている。そして正確な情報を得ようとしている。日本人は賢明だ。
世論の原子力への態度が、ここまで変わったのだから、政府、そして民間の担い手は、そうした原因の改善にもう一歩踏み出していいのではないか。
岸田政権では、口ではGX(グリーントランスフォーメーション)と言いながら、具体的な原子力活用には動いていない。短期的活用という点なら、国民の合意形成は可能になりつつあるように見える。原子力に関係する人たちは、もっと前に出て、「現時点では活用しよう」と呼びかけてほしい。そしてそれは可能であると思う。
石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
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メール:ishii.takaaki1@gmail.com
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