プーチンの甘い誘いは罠か?-日ロパイプライン構想を考える

石井孝明
ジャーナリスト

梶山静六氏のエネルギー研究

(写真)ロシアは化石燃料を政治・外交の武器に使う(iStock)
(写真)ロシアは化石燃料を政治・外交の武器に使う(iStock/AlexLMX

「ロシアからパイプラインを引き石油とガスを買う場合に、どのような問題が起こるか、利害得失を研究してもらえないか」。ある元経産官僚から聞いた話だ。1990年代に自民党の大物政治家で、経済産業大臣も経験した梶山静六氏(1926 -2000)から頼まれたことがあるという。当時、ロシアは経済混乱状態にあった。梶山氏のところにもロシアの政府や企業から打診があったという。

「まともな政治家は日本のエネルギー自立を常に考えていた。最近はそうではないが」と、この人は梶山氏の構想力を、敬意を持って振り返る。

経産省も当然関心を示したが、ロシアの政情不安などを理由に計画は立ち消えになった。おそらく、今話題になっているサハリン2の開発の前段階の話だろう。サハリンの開発は始まったがパイプラインの話はまだ動いていない。

ロシアの望み、日本資本の極東呼び込み

ロシア領極東シベリアには石油と天然ガスがあり、サハリン(旧樺太)では日本企業などが出資する開発プロジェクトが行われ、一部日本に輸出されている。この地域の人口はわずか約700万人で、開発資金は常に不足している。さらに、この地域は地球温暖化の影響か、冬季に氷で閉ざされる期間は短くなっており、パイプラインを設置管理しやすくなっている。

ロシアはウクライナに侵略戦争を仕掛けている。もちろん、それが終わらないと、日露の経済協力などは夢だろう。しかし私はロシア政治には知識がないが、世界から憎まれ、批判されるプーチン体制がこのまま終わるとはどうしても思えない。ロシアのプーチン大統領が何らかの形で失脚して新しい政治体制が生まれると思う。

ロシアの国庫収入の6割は石油・天然ガス関連の税収である。いつかは終わるウクライナ戦争と、プーチン体制崩壊の後、再びこの構想が浮上するに違いない。

2016年ごろ、安倍政権が北方領土に絡んで日露経済協力を議論した時に、ロシアのメディアは「日ロパイプライン構想」を繰り返し伝えた。ソ連以来、ロシアの報道は政府の意向を反映したものだ。そしてプーチン大統領はシベリア開発協力の推進を頻繁に唱える。ロシアは両国を天秤にかけながら、パイプライン構想を再び持ち出してくるかもしれない。

2016年6月に、北海道のエネルギーをめぐるシンポジウムで、東京ガスの幹部が「現時点で実現するとは考えていない」としながらも、サハリンから関東までのパイプラインの建設試算を公表した。総延長が約1500-2000キロ、総工費は最低で35億ドル(当時約4200億円)という。その開設で東日本のガス価格は現在の半分以下になる。その投資で、ガスが半額になったら、日本経済にも、個人の生活にも、多くのメリットがあるだろう。日本は天然ガスを液化して産地から運ぶ。その手間ゆえに、ガス代は単価でロシアの10倍ぐらいになっている。

「日本人はプーチンを信じるお人好しではないはずだ」

しかしロシアからのエネルギー資源の大量購入は、安全保障上の問題をもたらす。私は2014年秋にウクライナで、1986年に大事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所を取材した。大事故の後でも同国は脱原発できなかった。ここは石炭以外、ほとんど天然資源が出ない。隣国のロシアからガスと石油を購入しているが、政治緊張が高まるごとに止められた。ロシアの言い分は、「ウクライナがガス代金を支払わないからだ」というものだ。実際にそういうことはあったが、ロシアが政治的な道具として、化石燃料を使ったことは間違いない。

そのためにウクライナは、原発事故の後も原子力エネルギーを使い続けた。2021年段階では、国内電力の65%は原子力発電によるものだった。

また現時点で、欧州はロシアを完全に経済制裁できない。ドイツと東欧が中心に、ロシアの化石燃料を大量購入し、それによって経済と社会が動いているからだ。

ウクライナでは現地の作家との懇談で「日ロ間に天然ガスのパイプライン構想がある」と言うと、その人は笑いながら答えた。「日本人はプーチンを信じるほどお人よしではないだろう。エネルギーを通じて国を支配されるのでやめた方がいい」。

ロシアは信じられないが、協力は選択肢の一つに

冒頭で紹介した梶山氏は「ロシアを信じられないが、無資源国の日本が多様なエネルギー源を持つことは常に考えなくてはいけない」と、述べていたという。日ロパイプライン構想では、したたかなロシアの誘いを冷静に計算しながら、日本の利益を官民共に追求するべきであろう。

私は、もしロシアの体制が安定し、西側のような契約を重視し、侵略性のない国ができたら(かなり難しいが)、パイプラインはいくつもあるエネルギー源の一つとして考慮した方がいいだろう。安さに加えて、日本は天然ガスの8割以上を中国が事実上封鎖できる南シナ海を通って運搬しているからだ。エネルギーの安定供給の秘訣は多様な調達、製造だ。

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