自国通貨建て国債でも債務不履行は発生する

石井孝明
ジャーナリスト

60年間に32例、債務不履行が発生

日本経済の先行きは、1200兆円の借金を一因に悩みの多いものになろう(iStock)

「奇妙な人たち」が示す国債市場の潮目の変化」という記事を書いた。危険な兆候のある日本の財政について「大丈夫だ」「財務省はバカだ」と騒ぐ人たちを、私は「奇妙な人たち」と呼んだ。そうした政治主張は間違ってて無駄だ。騒ぎに巻き込まれず、資産防衛をしようと主張した。

すると、その「奇妙な人たち」が絡んできた。「自国通貨建ての国債は債務不履行を起こさない。日本国債は円建てだから安全だ」という。国は通貨発行ができるので債務不履行になりそうになったら、簡単に穴埋めができると主張している。大した理屈ではないが、すごいことを自分が言っている、知っているように勘違いしている。

実は違う。自国通貨建の国債のデフォルト(債務不履行)は起こりづらいが、経済史を振り返ると何度もある。

またカナダ中央銀行とイングランド中央銀行が世界各国の負債と債券動向を発表している。(ソブリン・データベース:サイト)1960年から2022年まで、自国通貨建のソブリン債(国とそれに準じる機関が発行する債券)の債務不履行は32例ある。

自国通貨建ての債務不履行はどのような形で発生するのか

以下はカナダ中央銀行の2020年の政策リポートを抜粋し、コメントしてみよう。(「どの程度の頻度で、自国通貨建てのソブリン債の債務不履行は起きるのか」(Special topic: how frequently do sovereigns default on local currency debt?))
同リポートでは、デフォルトを「支払えない」ではなく、当初の契約や条件の大幅な変更を含めて32例としている。

国債デフォルトを起こすのは、失敗国家だ。不名誉なことで、その後の経済活動の信用がなくなるので、各国はそれを誤魔化し、支払われた「ことにした」。またデフォルト国は統計も外国への報告も少ない。そのために調査は困難という。それでも色々な形の破綻がある。

一つの形はハイパーインフレだ。国債の価値を無価値にして、その返済をあやふやにする。2008年のジンバブエの例がある。ジンバブエは前年比年数千%超のインフレが3年ほど続いた。IMFのリポートだったと記憶しているがジンバブエで国債は返済されたという記録もあったが、状況はあやふやだ。国債は額面通りなら、高インフレでほぼ無価値になったので、返済されてもされなくても、どうでもいいことになったのだろう。

古い通貨を、新しい通貨に切り替え、古い通貨での金融資産の価値をなくす、もしくは取引できなくなる形もある。北朝鮮、ガーナ、ミャンマーなど17例だ。通貨制度の変更は、政府の財政破綻に加え、闇市場潰し、外国人の経済活動の停止など別の目的が加わることがある。

自国通貨建てソブリン債のデフォルトは、外貨建てのソブリン債のデフォルトをたいてい誘発する。自国通貨建てソブリン債のデフォルトの連鎖も、コンゴ、ニカラグア、ベネズエラ、ロシアで発生した。またペルーなど、経済混乱で国債の返済条件を大幅に変更した例もある。

自国建、外貨建を問わず、ソブリン債のデフォルトは、1980年代の中南米の債務通貨危機と、ロシアとアジアで通貨危機の発生した1990年代に起きたが近年は落ち着いている。

政策の失敗はずるずる長期化する

関連情報で、政府債務はどのくらい、帳消しで消されてしまうのだろうか。これも20年のリポートで調べられていた。(「デフォルトした場合に政府債務はどの程度含まれるのか」(Special topic: when sovereigns default, how big a share of government debt is involved? ))

通貨を問わず、ソブリン債のデフォルトは1960年から20年の期間に146件あった。大半の国では全債務のうち一部をデフォルトしただけだ。50%から100%の政府債務をデフォルトしたのは48件。アンゴラ、イラク、スーダンなど長期の戦争をした国が多い。

また、そうした国は、一度借金をすると、ずるずると長引く例が多い。20年のリポートで調べられていた。(「ソブリン・デフォルト・データに国内延滞を組み込む」(Special topic: incorporating domestic arrears in the BoC–BoE sovereign default database

IMFの発行支援を受けている71種のソブリン債で、2018年時点で金額の38%分が、国内で延滞しているという。IMFの支援は、財政の厳しい国であることを意味する。大抵の借金は予定通り返せず、迷惑を国民に広げるということだ。

債務不履行の起こる仕組み−暴政と中央銀行の破綻

自国通貨国の破綻国は、近年はトンデモ国ばかりだ。しかし独仏露などの大国も破綻してきた。いずれも、独裁的な政権による放埒な財政の運営によるものだ。

起こりづらい自国通貨建てのソブリン債のデフォルトがなぜ起きるのだろうか。

普遍的に次のようなことが発生する。ほぼ全ての国で通貨発行権を有する中央銀行は一つで、政府と分離している。政府に発行機能を持たせると財政が拡大し、通貨価値を毀損させてしまうためだ。この仕組みは19世紀前半から徐々に確立された。先人の知恵と言える。前述の奇妙な人たちの「国には通貨発行権があるから大丈夫」という奇妙な議論は、この点で暴論であり、経済史を知らない。(「国債の歴史」(東洋経済新報社)に詳しい。)

ところが、発券銀行の中央銀行が債務超過になることはあり得る。政府の圧力で、国債や変動性資産を抱え込み、それが何らかの形(戦費支出、インフレ、外貨に対する暴落)で大幅に減価した場合に、中央銀行が債務超過になる。債務超過の中央銀行の発行する通貨は、価値がなくなる。価値のない通貨を注入し、中央銀行の債務超過を解消しようとしても混乱するだけだ。

1990年代までの金融危機の時には、かつてIMFが中央銀行に外貨資本注入をして、小康状態を作り出した。しかし、その際にはその国の形を変えてしまうほど、政府の歳出を削減した。近年は、各国とも資金を出し渋るため、IMFの動きも鈍い。ベネズエラやジンバブエでは、経済混乱が放置されたままだ。

日本は破綻国家を笑えない

日本は、こうした破綻国家の群れを笑えない。日銀は大規模金融緩和策として、近年国債を大量購入し続けた。また2010年からETFの形で株を購入している。こうした金融資産を持つことは、その変動リスクを発券銀行が持つことになる。22年末時点では、発行済み国債の45%(時価500兆円?)、株の7%(時価50兆円?)を日銀が持つ異常事態だ。まだ含み益があるものの、今後の金利上昇は、国債の減価、株安をもたらしかねない。今のようなインフレ局面では、中央銀行は普通、国債買いによる金利調節をするが、日銀はこの資産状況のために機動的に対応を行えない。またこの国債と株式は、市場が吸収できないので、減らすことは難しい。

世界的な有名ディーラーだった藤巻健史元参議院議員は、「日銀はいずれ債務超過を起こして破綻し、第二日銀を作ることになる」とまで言っている。そこまで行くかはわからない。しかし、日銀がこの財務状況から脱出する方法を誰も考えつかない。当の日銀、政府から現時点で公けにアイデアを出していない。ちなみに、ドイツはヒトラーの第三帝国が崩壊した後で、この形で新しいドイツ連邦銀行を作った。その際に、過去の政府債務は外債以外は踏み倒された。

日本では、日銀の赤字国債引き受けは違法になる。事実上、今は引き受けをしているが、建前では市場から購入していることになっている。日銀が債務超過になった場合には、日本ほどの規模の国をIMFが救えるわけがない。債務超過になった日銀の発行する日本銀行券=円の価値は、どうなるかわからない。その場合に資本注入をする特別法が、すんなり国会を通るとは思えない。消費税を導入して3%から10%に上げるのに、日本では20年かかった。

日本は国債のデフォルトを経験している。大日本帝国は閉鎖した国内経済に詰め込んだ15年戦争の自国通貨建ての戦時国債を、1950年ごろまでに一応返済した「ことになっている」。

ところが、その背景には、ひどい政策があった。ハイパーインフレで、国債と円の価値が減価した。戦時国債は大半が低利の固定金利だった。軍票を占領した各国でばら撒き、資産を収奪したが、国に賠償を払ったものの、各国の個人や企業への返済はほとんどなかった。特別法を作って軍需産業への支払い、船会社の船舶などの資産の損害をゼロにした。新円に切り替え、預金の引き出しを制限した。こうした一般国民とアジア諸国民を苦しめる政策の上で、日本は国債を返済した「ことにした」。

【写真2】戦時国債や預金証書。東京大空襲で亡くなった人の遺品。戦後、これはインフレでほぼ無価値になった(東京都慰霊堂、墨田区)
(写真)戦時国債や預金証書。東京大空襲で亡くなった人の遺品。戦後、これはインフレでほぼ無価値になった(東京都慰霊堂、墨田区、筆者撮影)

21世紀に無邪気に「自国通貨建の国債は債務不履行を起こさない。日本国債は円建てだから安全だ」と叫び続ける人は「おめでたい」。私は日本は愛するが、今の日本政府を信じることはできない。

可能性は低いにしても、日本の国家破綻の可能性は念頭に置くべきだ。そして今、日本に悪影響を与え始めている国の借金1200兆円のツケは、何らかの形で必ず訪れることも警戒した方がよい。

石井孝明
経済記者
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

3 件のコメント

  1. hanabiyakenchan より:

    ハイパーインフレが起きないように通貨発行をやり過ぎないように発行すれば良いのである。今の緊縮財政策では全く国の財源を税金だけに絞っているがそれでは経済劣化してしまう。適正な規模の通貨発行してそれでインフラ整備等するべきです。そうすれば通貨が社会の発展に寄与して経済発展するのです。国の将来が良くなるように投資すれば良いのです。

    • 石井孝明 石井孝明 より:

      だからコントロールできなくなるのです。市場をコントロールできるという共産主義者みたいな考えは間違い

  2. kiti より:

    hanabiyakenchanさんの意見に対して
    共産主義だと揶揄する石井氏

    自分の考え以外の意見も広く受け止めて
    議論することこそ民主主義と思いますが
    ジャーナリストとしての意見をお聞かせください

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