小西洋之議員の出した総務省文書の解説「無駄な騒ぎ」

石井孝明
ジャーナリスト
安倍さんは亡くなった今でも、生きる人を走らせ続けている。存在が大きかったということだろう。ご冥福を祈る(首相官邸HP)

いつも国会で変な騒動を起こす、「困った人」の小西洋之参議院議員(立憲民主党、旧郵政省、総務省の官僚出身)が、またおかしな騒ぎを引き起こしている。結論から言うと、馬鹿馬鹿しい空騒ぎだ。

小西氏は2日記者会見し、総務省の内部文書を公開。7日に総務省は同省が作成した文章と認めた。2014年末から翌年5月までの文章。小西氏は、安倍政権が放送法を改変する違法行為をし、メディアのコントロールを行ったという。

小西氏はその文書78ページをネットに出している。(リンク)経済記者として、こういう行政文書を何度も読んできた。78ページの文書を普通の人は読むのはめんどくさいだろう。そのためにポイントを述べ、結論と対応法の提言、経緯、感想をを述べてみたい。

結論:大した話ではないので、国民はほっとけ

この騒ぎは、大した話ではない。国民は「ほっとけ」ばいいだろう。文書を要約すれば、礒崎陽輔首相補佐官(当時)がTBSに怒って、放送法の解釈を変えられないか騒いだ。総務省がなだめ、結局、少し解釈を変えた。しかし、それで社会もメディアも動かなかった。それだけの話だ。これは政治的立場に関係なく、常識ある人が読めば、私と同じ結論になるだろう。法解釈は政治家と行政官庁の仕事で、それを小西氏のいうように違法というのは変だ。

問題解決への提言:名前の出た役人を全員国会証人喚問し、漏らした役人を刑事告発せよ

私は自民党支持者ではないが、自民党の利益になると言う視点で対応策を練れば、以下のことを提言したい。

文書に名前の出た役人を、偽証罪の適用される国会の証人喚問で呼び出して経緯を聞き、漏らした役人を突き止め、その人物を国家公務員法の情報漏洩の罪で刑事告発すればいい。マイナンバーなどで情報管理の徹底が言われる中で、その管轄官庁の不祥事だ。行政への信頼を失わせる。

そして、できれば、かつて毎日新聞の西山太吉事件(説明省略。検索してほしい)でそうだったように機密漏洩の違法行為の「そそのかし」で、小西議員も訴追してほしい。法律は詳しくないが、多分可能だろう。そして直近の国政選挙はないので自民党の損害は少ないはずだ。

普通、メディアの場合は、機密文書を手に入れた場合に、情報源の秘匿の努力をする。しかし自分中心の発想しかしない小西氏は、全員の名前がわかるようにしてしまった。あまりにも幼稚な行為だ。

こうしたことをすれば、高市氏の言うように、役人が大臣の発言を改竄したか黒白がはっきりする。おそらく西山事件と同じように小西氏と立憲民主党が打撃を受ける。総務省の放送部門は自民党政権にひれ伏するという効果もある。

ただし、岸田政権はこうした「悪知恵」はなさそうだ。事なかれ方針で、ひたすら静かに、嵐が過ぎるのを待つだけだろう。

結果:放送法解釈が少し変わっただけ

この騒ぎの結果、放送法の解釈が少し変わった。建前の上では、総務省は、民間放送を中立かどうかで指導できる。「政治的公平」を番組全体で判断するか1本の番組で判断するかを礒崎補佐官は問題にした。総務省は「その放送局の番組全体で判断するが、極端な政治的偏向については一つの番組で指導する場合もある」と従来から答弁してきた。これが礒崎補佐官には曖昧だと不満だったようだ。

そのために総務省は特定の局や番組を名指しせず、「一つの番組のみでも極端な場合においては、政治的公平を欠き、放送番組準則に抵触する場合がある」という強めの言葉にした一般論を補充的説明として付け加え、国会答弁で出すことで決着した。安倍首相、高市総務大臣の主導ではなかった。またこの基準での民間放送局への指導はこれまで行われていないだろう。(経緯後述)

高市大臣の問題:小さなミスだが大したことはない

高市大臣はこの問題に主体的に関わっていない。説明を受けた時に「これから安保法制とかやるのに大丈夫か。民放と全面戦争になるのではないか」と気にしている。(15年3月6日メモ)。

また15年3月9日に総務省は以下のメモを作った。

高市氏は「この問題で総理と話したことはない」と今年3月3日に参議院の予算委員会で答弁した。そこで、それが嘘だったら議員辞職するかという小西議員の質問に「結構ですよ」と答えた。小西氏のような変な人に言質を取られる答弁をするのは、高市氏の小さなミスだろう。また高市氏はこれを含め自分について書かれた文書4つについて、総務省からの説明はなく、内容は捏造だとしている。

ただし、電話をしたかどうかは大した話ではない。これで辞職するのは馬鹿馬鹿しい。

文章の15年3月6日のメモには「(高市氏が)平川参事官に今井総理秘書官経由で総理とお話しできる時間を確保するよう指示」と書かれている。高市氏は首相ではなく、今井秘書官と話した可能性がある。平川参事官に聞けばわかることだ。

モリカケサクラ統一教会騒動と同じで、大したことないのに、メディアと反政府勢力が騒ぎにしたがっている。朝日新聞は、安倍晋三氏の後継を自認し、保守の「プリマドンナ」になりつつある高市氏を攻撃し、「首とり」(辞職)をしようとネット報道を見る限り大騒ぎしてるようだ。3月9日の社説では「高市元総務相、国の基盤揺るがす暴言」(リンクせず)と、大げさな文章を書いた。安倍氏とその親しい高市氏がそんなに憎いのだろうか。そんな勢力に、この問題を政治利用させてはいけない。

興味深いことに、Twitterではまともな立憲民主党議員(極めて少数)は、この問題に静かだ。小西氏は立憲内で浮いているとされるが、困った人の騒ぎと見られているのだろう。

感想:こんな馬鹿馬鹿しいことに一生懸命になって、官僚も政治家も大変だ

以下、私の感想を4点述べる。

一つ目の感想。放送法の解釈という馬鹿馬鹿しいことに一生懸命になって、官僚も政治家も大変な仕事だと思った。前述の「一つの番組のみ・・・うんぬん」の解釈の一文を述べるために、大人が半年にわたって、ああでもない、こうでもないと議論を重ねる。この答弁が出た後で、サンデーモーニングのいい加減な偏向報道が直ったわけでもない。本人たちは真剣のようだが、横から見ると「無駄」としか思えない。

二つ目の感想。小西議員は、変な人だと思う。一体何をしたいのかわからない。記者は問題を調べるとき、「筋読み」(スジヨミ)をする。事件の全体像をこのようなものだと目星をつける。もしくは事件の展開がどうなるかを予想するということだ。それが変わる時も、当たる時もある。これは記者だけではなく、どんな仕事をする人もそうだろう。ところが、小西氏は「違法だ」「安倍がー」と言うだけで、何が問題なのか説明していない。いつもそうなのだが、小西氏の考え、目指す方向が「筋読み」できない。多分、まともな常識を持つ人は、この文章を読んだら、私と同じ結論「大したことない」にたどり着くはずだ。変な人の変な行動に、私たちも政府も巻き込まれさせられるほど暇ではない。国会の運営には一日3億円かかる。日本全体にも小西氏の行動は迷惑だ。そうした認識をされるのに、「万死に値する」など、大げさで無礼な言葉を使い、騒いでいる。困った人だ。

三つ目の感想。総務省も、政治家も、民間放送に変に萎縮し、気にしていることが印象深かった。私はテレビをほとんど見ない。そんな影響を受けない層が増えている。ただし偏向報道はかなりひどそうだ。それなのに総務省は、法解釈一つ変えられない。安倍氏も高市氏も黙る。紳士ぶった礒崎氏が、変な恫喝をしたのは驚いた。しかしその状況にイライラしたことについては少しだけ同情する。民間放送は国の資産である電波帯を民間企業が占有し、左派勢力が好き勝手しているわけだ。なんでおかしいと言えないのか。総務省が、天下りなどのために、民放に忖度し、監視を緩めているのではないかと勘繰る。

四つ目の感想。この文書群は意味はないが、建前ではなく、役人の感情的な面が見えて興味深かった。後述のように礒崎氏が役人を「タダじゃ済まないぞ」と脅した。役人が礒崎氏を「ヤクザ」と批判した。長く行政取材をしているが、その裏には、いろいろな人の感情や考えがあるのだと思った。この問題を自治省と郵政省の内部抗争と説明する評論家がいた。そんな大げさなものではないだろうが、感情的な対立は面白かった。

放送法の解釈や、この内部文章を騒ぐ前に、国会がやるべきことはたくさんあると思う。

(本文以上)

付記・総務省文書の要約

◆2014年11月26日に礒崎総理補佐官・参議院議員(当時、旧自治官僚出身、大分県選挙区で現在落選中)付から、総務省の放送政策課に電話で連絡があり、「放送法に規定する「政治的公平」について所管する情報流通行政局長の説明(レク)を求めた。TBSのサンデーモーニングの偏向放送を不快がった。2014年12月は、「アベノミクス解散」(11月21日)の後の衆議院選挙の最中だった。

◆総務省は解釈変更と、安倍晋三首相(当時)に礒崎補佐官が説明するのも渋った。それに礒崎補佐官が怒り、「俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。首が飛ぶぞ」(2015年2月17日メモ)と発言した。

◆総務省出向の山田首相秘書官(旧郵政)は、礒崎氏の発言に「今回の話は「ヤクザに絡まれた」と言う話ではないか」「(礒崎は)官邸で影響力がない」と批判し、首相の関与案件にすることを渋り続けた。(15年3月15日メモ)

◆結局、礒崎補佐官は安倍総理に説明した。(15年3月6日)安倍首相は関心を持ったが、その後の経緯を見ると、積極的に動かなかった。安倍氏は前からメディアの偏向報道には批判的だったが、首相在任中は沈黙していた。この場合もそうだったようだ。

◆高市大臣には何回か総務省が状況を説明したと記録にある。ただ高市氏はやることに消極的だった。(上記の15年3月6日メモ)安倍氏と高市氏は電話で話したと、文章にある。これは高市氏が否定している。

◆結局15年5月12日に参議院総務委員会で藤川政人議員(自民)からの政治的公平性に関する質問に対し、礒崎補佐官と調整したものに基づいて高市大臣が上記の解釈変更を述べた。問題はこれで終わり、法改正などは行わなかった。民放側がこれで萎縮したとは思えない。

◆その他は、過去の国会答弁と礒崎氏などへの説明資料。

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