台湾危機、日本はエネルギー切断で戦わず「負け」

石井孝明
ジャーナリスト
(iStock / HUNG CHIN LIU

南シナ海とシーレーンは中国が押さえた

沖縄で、ひろゆき氏の発言をめぐる、変な騒ぎが続いている。何の意味があるのだろうか。騒ぎそのものが、国が戦争に巻き込まれるかもしれない時にずれている。

沖縄の米軍基地は沖縄と日本の安全保障のために存在する。ところが、その安全保障が中国による台湾侵攻の懸念などの形で、危機に瀕している。日本の人の多くは、この事実を知らない。そして日本は中国に戦わずして負けるかもしれない。国の安全や生活の根幹をなす日本のエネルギーを、中国が遮断できる状況ができつつあるためだ。

辺野古基地は1997年の橋本政権の時に建設が発表された。ところが25年経過した今でも完成しない。一方で中国は、2014年からの8年で南シナ海を不法に領有し、現在9つの島や礁に滑走路、港湾などを伴う軍事施設が置かれている。有事の際には、これらの基地が使われ、この海域を通る日本のシーレーン(海上交通路)が切断されかねない。

以下は、防衛省資料「南シナ海情勢 (中国による地形埋立・関係国の動向)(令和4年10月)」の図だ。

脱原発騒動で日本はLNG発電に過剰依存

(図)日本までのシーレーン(Wikipediaより)
(図)日本までのシーレーン(Wikipediaより)

この防衛省の持つ情報に、私が多少詳しいエネルギーの情報を繋げよう。海上交通線が切断された場合に、全物資の輸出入がおかしくなる。特に日本はエネルギーの面で脆弱になっており、それが経済の危機をもたらすだろう。

2011年の東京電力の福島第一原発事故の後で原発が停止し、過剰規制でなかなか稼働しない。その結果、日本は火力発電にシフトしたが、気候変動騒ぎで石炭火力の運転が抑制され、今はLNG(液化天然ガス)火力が中心だ。この10年、日本の発電に占めるLNG火力の割合は7−8割を占めてきた。日本が輸入するガスは半分が電力、半分が民間の都市ガスと産業の都市ガスに使われ、年間26兆円(21年、貿易統計)の巨額になる。

ガスの輸入は10%がロシアだが、残りは中東諸国とインドネシアだ。シェール革命でガス産出が増えた米国産ガスの輸入は本格化していない。そのガスは、中国が制海権と制空権を握りつつある南シナ海を通る。日本郵船、大阪商船三井、川崎の大手3社の持つ、日本の輸入に使われるLNG船は191隻(21年末、NYKファクトブック)。船はペルシャ湾から20日、インドネシアから7日で日本に到着する。往復を考えると数十隻の日本向けのLNG船が南シナ海、東シナ海を常時、無防備で航行している。

LNGは長期間備蓄できない。マイナス240度以下にしてガスに圧力をかけ液化しているが、それが気化して減ってしまう。LNG船は到着すると、すぐに気化してガスタンクに備蓄するが、減ってしまうために数日で使い切る。備蓄がほぼないために、南シナ海のシーレーンが使えなくなったら、日本は即座にエネルギー面で大混乱が起き、その混乱は経済全体に波及する。

本当に米軍は守ってくれるのか?

ここで、当然の疑問があるだろう。迂回ルートがある、中国が海上封鎖などをしたら米軍が介入するという、二つだ。

迂回ルートは当然ながら経費に跳ね上がり、輸送体制も混乱する。前述のLNGの海上輸送にかかる時間は一週間以上延びる。また米軍が守ってくれるとは限らないと私は思う。

中国人民解放軍は、天才的な軍事指導者である毛沢東の創立した軍隊だ。毛沢東の遊撃戦論は、「敵強ければ退き、弱ければ攻める」「戦闘だけではなく、目的を達成する様々な工作を行って敵を弱める」という内容を持つ。非正規戦争を考える「超限戦」という中国軍の思考法も最近、安全保障関係者の間で話題になっているが、出発は始祖の毛沢東の軍事理論だ。

米国は世界最強の第7艦隊を太平洋に展開させている。毛沢東の弟子である中国軍が、米軍の即座の介入を誘う愚かな行為をするとは思えない。米軍を直接狙わない「グレーゾーン」を攻める可能性がある。2014年にロシアがクリミアでやったように「謎の武装集団」の船舶攻撃や、(おそらく北朝鮮の攻撃によるものだが)原因が曖昧になった2010年の韓国コルベット艦「天安」沈没事件などの事故が、南シナ海で起きた場合にどうなるだろうか。民間の船舶はそうした危険海域に踏み込めず、海運は止まってしまう。調査も曖昧になり、恐怖だけが広がる。

日米安全保障条約は一方の国の軍事を含めた協力活動の要件について、「領域、主権」への攻撃があった場合に「自国の憲法上の規定及び手続に従って」(5条)行動することとしている。域外の攻撃があった場合に派兵することは明確ではないし、両国とも手続きを名目に介入の度合いを選択できるのだ。日本船舶の損害だけが生じ、「グレーゾーン」での攻撃があった場合に、米軍が介入するかは状況によるだろう。

米国は世界の海で「公海の自由を守る」と宣言している。しかし今回のウクライナ戦争では、太平洋・台湾と諸条件が違うものの、ロシア軍の黒海の公海上での妨害、第三国の船舶への攻撃に、米軍やN A T O軍はウクライナ軍を支援しているが、直接の軍事介入はしていない。

反原発、反米、反基地で日本は危険を自ら高めた

軍事では、敵の意図は読めないことを前提に、また仮定を置きすぎても何も判断できなくなるので判断できる範囲を定め、敵が「できるか」「できないか」を判断して対応策を練る。以上をまとめると、「中国軍が、南シナ海の交通を遮断できるか」と問題を設定すると「その可能性は大きい」という答えになる。そして、それを日本が軍事的に阻止でき、状況をコントロールできるかは、かなり怪しい。主導権は、南シナ海に基地を作った中国軍が握っている。

リスクを下げる対応法はある。準国産エネルギーと言われる原子力発電を活用して外国の化石燃料の使用を下げればよかった。沖縄県を中心に基地や軍事力を整備して、中国による武力行使の抑止力を高めればよかった。しかし日本では、反原発運動で原子力の活用が遅れ、基地や軍事力の整備は沖縄での反米、反基地運動で進まない。妨害行為は左派政党によって推進されている。そうした勢力が万年野党であるのが救いだが、自公の連立与党内でも奇妙な動きをする人たちがいる。

日本の危険を高める異様な動きの背景には、外国勢力がいるだろう。私は反原発運動を探ったことがあるが、某外国居留民団体系の団体のデモ参加は確認できた。しかしその背後にある資金の動きなどは確認できなかった。とても不気味だ。毛沢東流の工作の匂いがする。

日本は大変危険な状況にある。今すぐに中国による台湾侵攻が起きるとは思わないが、そのリスクは高まっている。日本は米軍の策源地になり、有事には台湾を支援する拠点になり、中国軍が沖縄県の一部に侵攻するかもしれない重要な場所だ。ところが、日本はエネルギーという重要な要素が国として脆弱で、そこを突けば簡単に混乱させることができる。毛沢東の軍は、敵の弱いところをついてくるだろう。

中国の国家目標は台湾の統一だ。その際にいきなり台湾に武力攻撃を仕掛けるのは、中国にとって危険だ。南シナ海を何らかの方法で遮断し、台湾を孤立させ、重要拠点の日本を大混乱させることを行えば、侵略はしやすくなる。

そして、もっと恐ろしいことは、こうした危機が目の前にあるのに、日本で積極的に対応が行われないことだ。日本の安全保障体制の未整備を懸念し、在任中にその充実に取り組んできた安部晋三元首相が7月に暗殺された。それなのに今開催中の国会での主要な議論は統一教会騒動だ。岸田首相も、国会議員も、メディアも、日本の安全保障をめぐる危機を話題にしないし、関心もない。エネルギー面では、ウイグル地区で作られた中国製太陽光パネルを買っても補助金が出る再エネ振興策を続け、原発を世論におもねって動かさず、エネルギー供給の脆弱化を自ら進めている。安倍氏の御霊(みたま)も今の日本を心配しているだろう。

この国は狂っており、戦争に負けるべくして負けるかもしれない。残念ながら私はそんな感想を抱き始めている。

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