志賀原発をめぐる危険デマを打ち消す-能登半島地震で
目次
能登半島地震、原子力批判に使われる
能登半島地震で、北陸電力志賀原発をめぐるデマ、不安を煽る情報が流れている。それらを、正確な情報を提供することで打ち消したい。このような大規模災害で不安を煽り、復旧を混乱させる人は、自らの行動を恥じるべきだ。
「人体に影響のあるような放射能漏れのあるような重大事故は、今回の地震で志賀原発で起こらない」
これが筆者の結論だ。行政、電力関係者は「絶対はない」と批判を受けるために、それを言い切れない。そこで私がここで指摘したい。
あるリスク判定方式によると、現在の原子力規制基準で、周辺地域で人体影響が及ぶような事故が起きる確率は、「1億炉年に1回」という。炉年とは原子炉の稼働年数のことだ。福島事故は、放射能が人体に影響があるほど漏洩しなかったのでここに当てはまらない。
同原発は現在、新規制基準の審査中で対応工事の準備をしている。そして稼働はしていない。その確率はおそらく同程度であろう。そして今回の地震で安全に影響を与える損傷は発生していない。
志賀原子力発電所で、原子力事故が起きることはありえない。起きないことに「杞憂」(故事成語:かつて杞の国の人が、空が落ちてくることを心配し続けたこと)するのではなく、今起こり、目の前の課題になっている能登半島地震の被害を止め、復興を考えるべきだ。
そして安全なプラントの維持に努力する北陸電力、関連会社、協力する地元志賀町と石川県民の皆様、町支援する電力業界の皆様に感謝を申し上げたい。
確認すべき情報源
北陸電力、電気事業連合会は、志賀原発をめぐる情報を公表している。私は、両者の担当者に取材をした。これらのページを読んでいただきたい。
原子力規制委員会・規制庁も広報をしているが分かりづらいので改善してほしい。北陸電力からの報告を流すだけだ。おそらく行政らしい、責任逃れのためだろう。
北陸電力:「志賀原子力発電所関係プレスリリース」
「志賀原子力発電所の現状について」(以下、北陸電資料)
電気事業連合会:「特設サイト:能登半島地震による各原子力発電所への影響について」
原子力規制委員会:「令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応」(PDF)(以下、規制庁資料)
ここに書かれた情報を、より短く、読みやすいようにまとめてみよう。朝日、毎日、東京の各反原発メディアの報道、TBSサンデーモーニングで、毎日新聞論説委員元村由希子氏の奇妙な疑問(デイリースポーツ記事)を参考に数の多い質問への答えをまとめた。
多い質問とその答え
Q:この地震で志賀原発に何が起きたのか。放射能漏れは起きていないのか。
志賀原子力発電所は現在、新規制基準の審査中で2号機は停止している。1号機は申請したものの、発電能力の大きい2号機の審査を優先している。いずれも核燃料は装填されていない。ちなみに2号機は2006年3月に運転開始したABWR(改良型沸騰水型原子炉)で当時は世界最新鋭だった。発電出力は135万k W(キロワット)と国内最大規模だ。
今回の地震では原子炉本体に異常はない。外部への放射能漏れなどの事故は起きていない。原子炉でも、どの工業建築物でも、すべてのものを頑健には作らない。壊れても、大事故に繋がらないものは、補強程度にとどめる。その壊れても大丈夫な機器が、今回は破損した。
今回の地震では変圧器が2つ破損した。それでそこを通る電力系統が使えなくなったが、予備系統があるので電力供給はそこから行える。変圧器から、取水溝を通じて「海に漏れた油」があった。それを騒いだメディアがあったが、海に漏れた油の量は推定でわずか6リットル前後だ。漏れた油は油膜フェンスで堰き止められて海に広がっていない。
放射能が漏れているかどうかは、モニタリングポストで確認できる。「図1」で示された通り、放射能漏れは起きていない。自治体が設置したポストが破損しただけで、志賀原子力発電所構内のポストは壊れていない。
Q:地盤が崩壊し、設備に影響が出ていないか。
一部の地面が揺れ、舗装などに割れ目があった。しかし、いずれも数センチレベルのずれ、破損で、発電所の運営や交通や作業に支障はない。大規模災害時に使う発電所内の基幹道路は破損していない。道路などの構造物の破損は構内では以下の通り4箇所だがいずれも軽微だ。(図2)
Q:津波が不安だ。福島第一原発事故は、津波で設備が壊れたことで発生した。
津波の高さは、気象庁によると志賀町沿岸部の1月1日の地震で約3メートルだった。志賀原発では、外部から冷却のために取り入れる取水槽の水位が、それに連動したためか、3m上昇したことが観察されたが、そこからの水の漏れなどはない。
志賀原発は、海面から高さ11mの場所に主要設備が作られ、その11mの場所に高さ4メートルの防潮堤が作られている。つまり海面から主要設備が水没するまで15mの高さの余裕がある。3mの津波で影響はない。
Q:火災が発生したと報じられている。
火災は発生していない。
Q:外部電源がなくなったと報じられた。
なくなっていない。外部電源は5系統ある。そのうち、変圧器の破損で2系統が使えなくなったが3系統は維持されている。非常用電源は1号機に3台、2号機に3台あり、いずれも使える。また、それとは別に大容量電源車が2台(1台点検中)、高圧電源車が8台あり、それらも使える。電源が喪失することはない。
Q:想定外の揺れの地震があった。
地震は想定内である。設計上は旧規制基準の600ガル(ガル:揺れのエネルギー)に耐えられる。新規制基準で1000ガルに耐えられるように工事を行う予定だ。今回の地震は構内の建物で399ガルが観測された。構内の一部施設で局地的に揺れが想定上限近くになった可能性があるが、原子炉の安全に関係する主要機器では想定以上の振動は観測されなかった。
Q:使用済み核燃料の保管プールが心配だ。水が漏れたと伝えられた。
どの原子力発電所でも使用済み核燃料を原子炉建屋内に保管している。水中に入れて冷却を維持している。志賀原子力発電所では1号機の冷却ポンプが地震直後に停止したが、すぐに復旧した。2号機では揺れにより推定57リットルの水がプールの周辺に漏れた。微量の放射線を発する水だが、すでに拭き取っている。外部への放射線漏れなどの影響はない。またいずれのプールでも破損はないし、冷却は維持されている。
1号、2号とも運転停止から10年以上が経過しているため、同燃料の温度は下がっている。水を冷却しなくても、加熱して水が蒸発する可能性はほとんどない。
Q:石川県に地震の可能性がある以上、原発を作るべきではない。
今回の能登半島地震のプロセスも解明されていない状況で乱暴な意見だ。日本の原子力発電所は、堅固な岩盤の上に原子炉が建てられ、活断層が重要施設下部にない条件で建設されている。「活断層でない」とは直近12万年動いた形跡がない断層のこと。もちろん今回の地震の分析は必要だが、安全が確保できるならプラントを潰す必要はない。
不安を膨らませるのではなく、冷静に原子力に向き合おう
以上が主な疑問と、専門家の意見、各当事者の意見を参考に私が編集した答えである。あり得ない志賀原発の事故の不安を膨らませるのではなく、冷静に情報を受け止めてほしい。そして、今の災害の克服と次の災害の準備をするべきだ。
石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com
3 件のコメント
-
デマや陰謀論にハマるのは
1.経験の浅い若者
2.少数派の左翼・野党。「社会で孤立すると仲間を求めて陰謀論を信じる」 -
平成改元前後 広瀬隆なる反原発活動家の書いたトンデモ本がたまさか広範に読まれ 多くの人がパニックに陥り性急な反原発熱が高まった時代がありましたが 当時の日本人は欧米ではよくあった「疑似科学」という概念も この本が典型的なその種の書であることも全く知らず 知的な免疫が皆無だったに過ぎなかった
ネット陰謀論(しかも一過性の)にハマる人たちはそれに加え CIAや旧KGBなどが暗闘してきたリアルな謀略戦(多くが歴史的には成功していない)など現実の「諜報・策動」等のテーマに学んだこともなく 空虚な陰謀史観への免疫もない人たちなのでしょう
-
「志賀原子力発電所は現在、新規制基準の審査中で2号機は停止している。1号機は申請したものの、発電能力の大きい2号機の審査を優先している。」
すみません,正しくは「1号機は未申請,2号機は審査中であり,1,2号機とも停止している」かと。
コメントを残す
YouTube
石井孝明の運営サイト
ランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
最近のコメント