電力会社の復旧努力に注目を−能登半島地震から考える

石井孝明
ジャーナリスト

(このたび、外国人問題、経済安全保障問題のサイト「Journal of Protect Japan」を立ち上げた。エネルギー、環境政策の解説を行う「with ENERGY」と共に、利用いただきたい。双方向のやり取りを期待する。意見、感想をぜひ寄せていただきたい。)

電気の復旧遅れ、誰のせいか

(写真1)北陸電力送配電による復旧作業。同社グループのXより。

災害で、生活復旧のために重要な要素の一つが電気の復旧だ。今回の能登半島地震ではどうだったろうか。

1月1日に地震が発生してから2月1日時点で、まだ1500戸が停電していた。同月中に停電は解消した。北陸電力グループの契約数は、北陸3県を中心に218万8200件(23年9月末時点)ある。電気の供給の大半は維持された。

そして世界の大災害を見ると、電気の復旧に数ヶ月かかる例も多い。同社の電力供給の維持の取り組みは、評価されるべきだ。

しかし日本での大災害では被災後1週間程度で電気は完全復旧した例が多く、この復旧スピードはやや遅い印象がある。北陸電力グループは能登半島の道路網が他地域に比べて充実しておらず、しかもその道路が被災していることが原因と説明している。その説明はおそらく正しいだろう。そして、日本の電力会社が復旧能力については、世界的に稀有なほどレベルが高い。

日経新聞の奇妙な報道−自由化すれば復旧は早い?

けれどもそれを批判する報道があった。日本経済新聞は、1月24日に「電力供給 進まぬ分散-大手寡占、災害時にリスク」という記事を掲載した。

この記事は「電力の供給網のもろさ」を能登半島地震の復旧の遅れが浮かび上がらせたと指摘した。そして電力自由化が進むのに、既存の送配電網を持つ大手電力が新規参入を妨害し、事業者が増えないことが「災害時のリスクになりかねない」という内容だ。

これは不思議な見方だ。1990年代から始まった電力自由化は、2020年の発送電事業の分離で現在、一段落した。しかし停電の危険など電力システムの不安定化などさまざまな問題が発生して、制度の見直しが行われている状況だ。

電力自由化では家庭などの一般送配電事業では完全自由化は行われず、地域独占が部分的に認められた。電柱や電線など送配電網の建設・保守のスケールメリット、一元的な管理による二重投資の防止などの、独占を残した方が効率的であるためだ(経産省・資源エネルギー庁の説明、同省ホームページ・スペシャルコンテンツ「2020年、送配電部門の分社化で電気がさらに変わる」)。

設備投資が巨額で儲からないので、送配電への新規参入は2024年になってもほとんどない。消費者にとって「電気が自由に使えること」は、電力サービスを受ける中で最も重要なことで、その維持のためには、独占させることが役立つ。

ところが日経の記事は、「送配電事業者を分散すべき」と、真逆の批判をした。そもそも分散しようにも送配電事業者の成り手がいないし、むりやり分散したら非効率になるだけだろう。こうした話でこれまで言われる一方だった業界団体の電気事業連合会が、反論をホームページに出す騒ぎになった(電事連側の反論)。

日本経済新聞は、近年、既存の電力会社に冷たく、原子力を批判し、電力・エネルギー自由化を過度に賛美する傾向があった。今回の報道もその流れの一つに見え、違和感はないものだ。

エネルギー問題を語る際には是々非々で−企業攻撃はやめてほしい

経済記者として私はさまざまの業界を見てきた。ある業界が不祥事などをきっかけに、社会的な批判を受け続けることがある。バブル崩壊の際の証券業界、不良債権問題での金融業界などだ。2011年の東京電力の福島第一原発の事故以来、電力業界はそうした理不尽な批判に直面しているように見える。

エネルギーを語る時、まず原子力発電の是非が語られる。それは発電の一手段に過ぎない。私たち庶民にとっては、エネルギー、その中の一つである電気が、安く、安定的に、安全に使えればそれでいいはずだ。それなのに、政治的な争点にして、問題の端っこにすぎない、原子力のことばかりを唱えるのはおかしい。

それぞれの国でエネルギーの事情が違い、そして日本は無資源国で化石燃料を使わざるを得ないのに、非合理な化石燃料批判が向けられることもある。それぞれの電力会社の発電、送配電という中心の事業については、なかなか報道されない。

私の見るところ、日本の既存の電力会社は真面目で堅実な社風の企業ばかりだ。安定的で、安全な電力供給のために努力を続けている。こうした批判を、私は気の毒に思っている。

今回の能登半島地震で、北陸電力グループは、巨額の費用を掛けながら、電力の復旧活動を行っている。地元紙北國新聞は1日の記事「停電生活から解放―県内ほぼ解消、住民安堵」で同グループ社員が輪島市の停電復旧地域を周り、安全を確認するなど丁寧な対応をして、住民が「普通の生活に近づいた」と安堵したと報じる。そして、これには他地域の電力会社も協力した。

しかし同社の努力はメディアで報じられることは少ない。朝日新聞を能登半島地震発生から、2月10日まで「北陸電力」で検索すると、60本の記事のうち50本ほどは、別に危険ではない同社グループの志賀原子力発電所についてのものだった。報道するべきテーマがずれているように私には思える。

受け手も情報の背景を考える必要

日本のメディアにも、社会にも、事業、ビジネスをしたことのない人の中に、電力会社を含めて企業を悪として、まず批判する風潮があるようだ。メディアの記者などの多くは、ビジネスをしたことのない人たちだ。こういう人たちは社会の中で数が少ないはずなのに、声が大きい。現場の人の声も聞かずに、思い込みで自分の正義を語る。ここで示した日本経済新聞の記事はその典型だろう。

他のメディアもそうだ。「金儲けは悪」「企業は悪い」の視点から批判的に取り上げる例が多い。そもそもメディア不況と人員削減のため、そしてネットの隆盛のために、記事の量は増えているものの、企業活動を掘り下げた記事は少ない。

エネルギーについても、また他の問題についても、敵意電力会社の供給努力の真面目さなど、ほめるべきニュースはたくさんある。是々非々で評価しなければ、各企業は萎縮する。それは企業の長所を消し、さらには日本経済全体の力も弱めてしまう。

能登半島地震で頑張る北陸電力のことを思い浮かべながら、読者の方は流れる情報の真偽や意味を考えてほしい。

石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

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