高レベル放射性廃棄物の最終処分地選び、冷静に議論できる環境づくりを

石井孝明
ジャーナリスト

(このたび、外国人問題、経済安全保障問題のサイト「Journal of Protect Japan」を立ち上げた。エネルギー、環境政策の解説を行う「with ENERGY」と共に、利用いただきたい。双方向のやり取りを期待する。意見、感想をぜひ寄せていただきたい。)

原子力発電で出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場選を巡って、佐賀県玄海町は5月10日、第一段階となる「文献調査」を受け入れる考えを表明した。受け入れは北海道の寿都町(すっつちょう)、神恵内村(かもえないむら)に続いて3例目だ。廃棄物の最終処理地はまだ決まっていないが、私たち現世代が解決しなければならない問題だ。しかしメディアや政治家が対立を持ち込み、解決どころか地域社会に混乱を持ち込もうとしている。静かに関係者、地元住民が議論のできる状況になって欲しい。

九州電力玄海原発(Wikipediaより)

静かな佐賀県玄海町、対立は目立たず

ある玄海町の町民に話を聞けた。「調査に手を挙げたことで新聞・メディアは玄海町に地域対立が生まれているという。そんなことはない。雇用が生まれ、交付金をもらえればいいと考える人が多い」と、私に話してくれた。この要請は、この人を含め、地元の商工会、町民、町会議員が相談し、誘致を語り合い、議会と町に働きかけたものだという。

もちろん、これは一町民の意見で、玄海町の総意ではない。脇山伸太郎町長は調査に慎重であったとされる。しかし現地には誘致をする声が一定数ある。ここには九州電力玄海原子力発電所があり、住民は原子力を理解して、最終処分場の誘致の得失を十分理解している。文献調査を受け入れるだけで、国は交付金を自治体に20億円支出する。これに「税金で誘致を促そうとする」との批判はあるが、重要かつ議論を生む設備なので仕方がないだろう。建設までは十数年以上を想定し、国は地元での合意づくりを期待する。
 
かつて2007年に高知県東洋町で、この文献調査の受け入れが当時の町長から提案された。ところが、市長はこの問題でリコールをされ、提案は取り下げられた。この際に、全国から反原発運動家が集まり抗議をし、当時の橋本大二郎高知県知事はこの文献調査の提案を激しく批判し、県で廃棄物持ち込みを否定た。さらに民主党、共産党などの中央の国政政党が介入。現地は混乱し、落ち着いて議論ができる状況ではなかったという。

北海道の2町村は2020年に文献調査の受け入れを表明した。立憲民主党、日本共産党、反核の政治集団が現地で反対活動を行っている。北海道はもともと、そうした人の力が強い場所だ。しかし住民と政府を交えた対話が行われ、この2町村で次の調査に進むべきかどうかを今、国・経産省が審査をしている。そして今回、九州にも立候補があった。処分地探しの反対は根強いが、議論が深まり、また過激な反対論が起こらなければいい。1ヶ所だけが立候補すると、そこに政治運動や関心が集まってしまい混乱が生じてしまう。

火のない所で争いを煽る政治とメディア

しかし、この玄海町や北海道での最終処分地選定をめぐり、危険と不安を煽り、反対論を勢いづかせようとしている人たちがいる。山口祥義佐賀県知事は「新たな負担については受け入れる考えはない」と述べ、最終処分場は受け入れないとの見解を繰り返している。しかし同時に山口知事は「町議会の議論を見守る」としている。冷静な態度だ。

しかし鈴木直道北海道知事は2町村の行動に批判する見解を繰り返す。北海道は2000年に「北海道における特定放射性廃棄物に関する条例」を制定している。そのために放射性廃棄物の受け入れは、文献調査も含めて断固拒否という立場だ。鈴木知事は、立憲民主党などの支援を受けて当選しており、北海道電力泊原発の再稼働にも冷淡だ。こうした結論を決めて、批判を繰り返す態度は、適切とは言えない。佐賀県は保守色が強いので中央の反対運動は目立たない。しかし、北海道のこれら2町村では説明会などがあると、一部の政党に動員された人が、東京や札幌から大挙して押し寄せ、反対意見を述べているという。

多くのメディアの態度も冷静さを欠いている。地元の佐賀新聞は「『無責任』『民主主義の否定』 反対派、受け入れに憤り」(5月10日)と、反対派の意見を繰り返し取り上げている。同紙は、九州電力玄海原子力発電所については冷静な報道をしてきたが、なぜか今回の文献調査の受け入れでは激しく批判する。

北海道新聞は以前から、激しい反原発の主張を重ねてきた。今回の2町村の動きでも、強い反対姿勢の報道を続けた。今回の玄海町の動きについても「玄海町と核ごみ 国の焦り透けて見える」(同12日)との社説を掲載し、「焦りから、過疎地に押し付けるかのような構図が透ける」と国を糾弾した。
 
朝日新聞は北海道の2町村について、「報告書案に識者疑義 核のごみ最終処分場審議会」(3月30日)という記事を掲載。国がこの調査を受けて審議をしているがそれを伝えた。反原発団体側の主張する「地震の多い日本で地層処分の安全性は確保されているのか」という言い分を強調する一方、次の段階に進むべきだという建設的な意見は取り上げなかった。

以前から「反原発」に凝り固まるメディアは、国民への情報提供という、その責務を放棄しているかのようだ。

今の世代が解決すべき廃棄物問題

こうした文献調査の受け入れ地域では、報道の伝えるところと、現実の状況はかなり違うようだ。報道では分断対立が強調される。しかし玄海町や北海道の2町村では、町民は冷静に議論を進めたがっていると聞く。そして政治やメディアは、自らがそうした分断と対立を生み出そうとしているように見える。

日本は「核燃料サイクル」政策を採用し、そこで再処理しきれない高レベル放射性廃棄物を地下300メートルより深い安定した地盤の中に埋め、人の手を離すという「地層処分」という政策を採用している。私見だが、現在の技術では一番安全な方法だと思う。

この地層処分は原子力発電を実施する国で数多く採用されている。しかし、処分地が決まり、場所が確定したのは、スウェーデンとフィンランドのみだ。住民合意が難しいためだ。

だからこそ政治家、そしてメディアなどは、対立を煽るのではなく、両論を示し、冷静な議論ができる状況を作ってほしい。自由に関係者が意見を述べられ、合意をまとめられる状況を作るべきだ。そして国民も煽動に煽られず、そして参加せず、放射性廃棄物処理の問題解決のために、静かに議論できる環境を作りに協力し、自ら参加することを考えるべきだろう。さらに別の地域も、原子力施設の誘致に声を上げられるような状況を作りたい。

高レベル放射性廃棄物は、今、ここ日本にある。それを安全に処理することは原子力発電に賛成、反対に関係なく、今の世代が解決すべき問題だ。反対だけを叫び続けることは、建設的な態度ではない。原子力の利用は、日本では残念ながらこれまで「政争」の論点の一つになっている。放射性廃棄物の最終処分の問題は、そうした争いから引き離し、冷静に議論をすることを願う。

石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

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