北杜市、太陽光での恫喝・暴力事件−住民の恐怖をとめよ

石井孝明
ジャーナリスト
(写真)北杜市での太陽光開発をめぐる混乱は続いている
(写真)北杜市での太陽光開発をめぐる混乱は続いている

北杜市で発生した住民の恫喝

山梨県北杜市で、住民説明会での恫喝や暴力の動画が拡散され波紋を広げている。一体、何が起きているのか。(映像4点:太陽光パネルの乱立から里山を守る北杜連絡会から)

映像は異様だ。説明会の参加を求める住民の出席を拒否。誰が決めるのかと住民が聞いたら老人が「俺が決めたんだろう。何が悪いんだ。喧嘩売りに来たのか」と大声を張り上げる。住民が資料を見せろというと、その資料を無理に引っ張り取り上げる。そして殴る素振りをみせ、それを静止しようとする人の腹を殴る。

住民が暴力の恐怖に、なぜ直面しなければならないのか。

暴力老人の素性とは

関係者によると、これは今年5月に2回、7月に1回行われた、北杜市内での住民説明会での映像だ。この老人は、営農型太陽光発電を作り、販売する東京・世田谷区にあるN社のN(80歳)という顧問だ。7月の説明会では暴力沙汰で刑事事件になっている(後述)だが、市議会での北杜市側が説明した話では、昨年から市役所を何度も訪問し、市職員の胸ぐらをつかむなどの行為もあったという。

N社は現時点で、北杜市内での3カ所の太陽光発電の実施を計画している。しかし突然の計画発表で、住民は計画に懐疑的だ。最初からN社は攻撃的で、住民との対話をする姿勢がない。

北杜市では、2019年に「北杜市太陽光発電設備と自然環境の調和に関する条例」を作り、10k W以上の発電能力を持つ太陽光発電設備(屋根上等の設置を除く)では設置前に地元住民に周知を行うこと、一定の条件に基づき市が太陽光を許可することを定めている。そのために、N社は説明会を行った。

同7月14日の説明会では、出席した北杜市議会の高見澤伸光議員が、このNに腕を掴まれ全治2週間のけがとの診断を受けた。市議は被害届を警察に出し、甲府区検察庁は10月17日に暴行罪でNを略式起訴した。11月15時点で、裁判の結果は明らかになっていない。(同25日、Nには10万円の罰金刑が出たことが明らかになった。)

N社側から住民に出された資料もかなりおかしなものだ。「景観について」という文章で、同社の営農型太陽光発電は「スマートでおしゃれでかっこいい」「パネル下でお食事でもしたくなる」などと、暴力からは連想できない単語を並べている。

N社に対して11月にEメールと電話で取材を申し込んだが、電話は留守電で、メールに返事はなかった。この事件は北杜市でも問題視され、このN社に対して、「地元との信頼がまったく回復できていないので、それについては許可の対象にならないものと考えております」と、市議会で議員の質問に市は答弁している。

乱開発抑制に冷たい北杜市、市長、市議会

なぜN社がこのような暴力的行為を放置するのか、全く理解不能だ。この会社は、作った太陽光発電を売るビジネスを行っているようで、長期的に地元住民と付き合わないから、このような横暴ができるのだろう。これまで電力会社は、発電立地地域の住民に配慮を重ねてきた。再エネ支援策の制度設計上の問題もある。

私は北杜市の太陽光発電をめぐる乱開発の記事を2014年から書いている。(「太陽光発電の環境破壊を見る-山梨県北杜市の状況」「なぜ太陽光発電による環境破壊が続くのか?山梨県北杜市を例に」)

北杜市内で再エネの支援策であるF I T(再生可能エネルギーへの賦課金制度)で認定された太陽光発電施設の数は2400カ所になる。その面積は不明で、全体像はどこも把握していない。F I Tの制度はかなり雑に作られており、手直ししても問題が次々と浮上している。

北杜市では住民が集まり、太陽光発電について意見交換を重ねるようになった。その一つの「太陽光パネルの乱立から里山を守る北杜連絡会」(里山連絡会)は、市内の要望を取りまとめ、上村英司北杜市長、北杜市、北杜市会議員に働きかけを行っている。政党や市民団体の背景はなく、地元住民による自発的なグループという。

同会代表の坂由花(ばん・ゆか)さんは話す。「せっかく北杜市の条例ができたのに、また住民から多くの疑問の声が寄せられているにもかかわらず、太陽光発電所の設置許可は安易に出てしまっているというのが実情だ」。

同会では上村北杜市長に今年5月26日に直接面会した。上村市長は厳格な条例適用に消極的だった。「個人の土地は個人が自由に使う権利があると思っている、それは憲法で定められているので過度な制約はかけられない」と述べた。そして里山連絡会のチラシに「北杜市でたくさん問題が起きていると思われかねない」と、やんわりと批判した。そして条例の厳格な運用に消極的だったという。北杜市の住民の権利への視点、公共の福祉の視点を重視していないように思える態度だ。

市長の反応が示唆するように、北杜市では太陽光発電によって利益が出る人たちもいる。事業者は市外の人が大半だが、遊休地を貸す人、設置に関わる地元工務店などだ。20人の市議会議員がいるが、同会が説明しようとしても約半数がそれを断ったという。つまり北杜市全体が一丸となって、太陽光の乱開発に対応できていない。

反社会勢力参入の噂、行政と業界による規制を

同会の坂さんは「私たちは太陽光発電を否定はしていません。景観や安全に配慮し、地域住民の意見を聞いて事業を行ってほしいという、当たり前の願いを持っています。しかし、このN社などのように最初から対話をする意思がないどころか、暴力の恐怖を撒き散らす人たちがいます」と、悲しげに語る。住民の不安と不満は当然だ。

北杜市は住民を、悪質な太陽光事業者から守るという態度を明確にしなければならない。そして、この異様な事件では、当事者の説明が必要だ。

そしてこれは、北杜市だけの問題ではない。全国で太陽光発電による環境破壊の問題が浮上している。反社会勢力が太陽光発電に関わっている噂をいくつかの地方で耳にした。F I Tによる補助金は2022年で4兆2000億円。F I Tの導入以降、わずか10年でここまで巨大化したため、反社会勢力が参入するのも当然だ。

政府による規制も必要だが、太陽光事業者自らによる自主規制と悪徳業者の排除が行わなければ、再エネや太陽光事業の未来はない。社会や住民と調和しなければ持続可能な事業など行えない。

そして再エネが大切だと繰り返した政治家、事業者一般人までの多くたちは、この現実への解決策を提示してほしい。私は再エネの拡大を応援するが、このままの形での再エネの発展は、必ず社会をおかしくする。

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