自民総裁選、候補9人の意見をエネルギーで比べる
目次
候補9人の経済・エネルギー政策の一覧
自民党総裁選が9月12日に告示された。9人が立候補し、27日の投票の予定だ。各候補の出馬会見時から新聞・メディアで盛り上がりをみせている。エネルギーに焦点を当てて、各候補の考えを紹介してみよう。表にまとめてみた。
日本のメディアは、政治家の人柄や権力闘争を伝える「政局」記事は好きだが、政策記事は少ない。有権者のためにその政策を整理する意味はあるだろう。
目立つ高市氏の原子力への関心
関係のある議員の政治資金パーティー兼政治セミナーに、2022年秋に出たことがある。ここで、高市氏はこんな内容のスピーチをしていた。(写真1)
「原子力には追い風が吹いています。三菱重工さんが、革新炉『SRZ1200』の開発を関電さんなど、4社と共に行う良いニュースも出ています。私も核融合を〇〇先生(その議員)と一緒に頑張ります。形になれば原子力への支援はますます広がるでしょう」
革新炉の名前がスラスラ出てくるなど、彼女の原子力への関心の高さに驚いた。私も名前まで記憶はしていなかった。
2022年に日本原子力研究所開発機構が核融合の実験装置「JT-60SA」を稼働させた。この予算措置について、21年に自民党政調会長として予算配分に影響力のあった高市さんは支援した。
現在、彼女は、内閣府特命担当大臣として、経済安全保障、科学技術振興政策を主導する。そこで彼女は21年9月に、内閣府に「核融合戦略有識者会議」を立ち上げ、22年12月に中間整理を行なった。日本は核融合について世界トップの知見と技術力を持つが、研究機関、大学、企業、政府がバラバラに動き、産業化という視点は少なかった。彼女はそれをまとめようとしている。これは適切な着眼だ。そして彼女は会合に毎回出席する熱心さを見せた。
彼女の原子力への思い入れの背景は不明だ。しかし夫の山本拓前衆議院議員が福井県選出であり、原子力や新型炉に詳しかったので、情報をそこから得ているのかもしれない。
ただし高市さんの原子力への関心は革新炉に傾きすぎ、バランスが悪い。革新炉は、岸田首相がテコ入れを表明しているものの、どの種類でも今着工しても早くて建設竣工、稼働まで十年先の話だ。そして彼女の好きな核融合の実用化は2050年ごろだろう。
それよりも今の原子力と日本に必要なのは、おかしな原子力の規制政策の是正と、止まっている原子力発電の再稼働だ。そちらにも関心を向けてほしい。ただしポスト岸田の最有力候補の一人となっている高市氏の原子力への関心は電力・原子力関係者には、歓迎されている。私も同じだ。
「原子力票」が自民党総裁線を左右
今回、エネルギー・気候変動問題で、高市氏以外に、良くも悪くも目立った行動をした2人が有力候補となっている。
河野太郎氏は、反原発、脱原発の姿勢を取ってきた。自分がそれでは首相になれないことを理解しているのだろう。彼は今、内閣府のデジタル・行政改革担当大臣だ。その仕事の一環として、今年7月には日本原子力研究機構の茨城県の施設を訪問。「私は反原発ではない」と記者団に説明し、原子力に理解のある姿勢を見せるパフォーマンスを行なった。
小泉進次郎氏は、環境大臣として、国の温室効果削減の数値の設定に関わった。その行動が異様で支離滅裂であることは、8月23日記事「「無能な働き者」?小泉進次郎氏の環境大臣としての奇行を振り返る」で紹介した。
ただし彼は発信力がある。2022年の福島原発事故の処理水放出の時に、その海でサーフィンを行って内外に報道、注目されるなど、目立つアイデアづくりは優れている。
もう一人の有力候補の石破茂氏は、安倍晋三元首相と対立し、人事的に最近は主要閣僚に就任できなかった。彼は勉強家だが、この2−3年、政見がリベラル寄りになっている。原子力を「可能な限りゼロ」、再エネ拡大を主張している。
実は前回の2021年9月の自民党総裁では「原子力」票が影響した。原子力発電所の立地する場所は12道県になる。それらの地域の自民党の選出国会議員は全て2位の河野太郎氏以外の候補に流れた。党員の票も河野氏は多数を取れなかった。河野氏の反原発の姿勢を警戒したのだろう。
候補の大半は常識的な見解
残り5人の政策をまとめてみよう。小林鷹之氏は内閣府特命担当大臣(経済安全保障担当)に第一次岸田内閣で抜擢された。当時から自国産業育成を主張していた。以前から再エネの過剰振興、外国製機器による再エネ拡大、外国企業の日本のエネルギーシステムへの参入に疑問を示していた。
林芳正氏は、岸田政権の「GX政策」の継承を打ち出している。他の候補はGXをそれほど強調していないので、それは目立つ。岸田政権の政策、つまりエネルギー改革の定着・検証、原子力の活用、気候変動に伴う投資を継承すると思われる。ただし口では勇ましいが、具体策が乏しかった岸田政権の政策を継承することは困る。
茂木敏充氏は、原発の新増設を主張する。クリーン電源、おそらく高性能火力、火力での水素使用や再エネも振興するという。
加藤勝信氏は社会保障、上川陽子氏は外交に関して知見を示しているが、エネルギーについては簡単に言及しているだけだ。
簡単な分類をすると、高市、小林両氏が国産エネルギー派、小石河は再エネ重視、残りは中道という感じだろうか。
候補たちの印象記
またこの9人の中で、私は記者として、小林氏、加藤氏、上川氏以外の6人と会ったことがある。5年ほど前まで、エネルギー問題の専門誌で政治家インタビューを担当していたためだ。
記者の取材は相手の表面的なことしかわからない。たいていは短時間の面会であり、相手も身構えるためだ。ただしこれは5年ほど前の話で、人は日々変わる。またあくまで、これらは私の私的な印象だ。読者の方の一参考情報として受け止め、深く信じないでほしい。
石破氏は、何度か取材し、その勉強好きと、物腰の柔らかさ、政策の理解の深さ、話し上手、聡明さを感じた。相手のことも配慮する。一級の人物だと思った。しかし政党や派閥を渡り歩き、政敵であった安倍晋三氏を首相の際に攻撃し、「後ろから鉄砲を撃った」と、多くの人に批判されている。記者に見せる表の姿と、裏の姿が違うのかもしれない。そして最近の彼の政見を聞くと、弱者救済などのリベラル色がかなり強くなりすぎている印象を受けた。
河野太郎氏は私がエネルギー専門誌の取材だったこともあり、エネルギー業界に攻撃的な態度を示した。頭の回転の速さは理解するが、その攻撃性に危うさを感じた。
高市早苗氏とは学者グループと集団で会った。人当たりがよく、原子力に深い理解があること、エネルギー安全保障の詳しさに驚いた。
茂木敏充氏、林芳正氏も取材した。いずれも詳細なメモを準備し、その周到さと、聡明さが印象に残った。ただ取材を速やかに片付けようという冷たさを感じてしまった。1回だけの取材だから、そのような態度を記者に示すのは仕方ないだろう。しかし、めんどくさがらずに暖かさを感じさせ、一度きり会うだけでも記者を信用させるのが大政治家と思う。それが見当たらなかった。
小泉進次郎氏は記者会見で会った程度だ。確かに明るい、目立つ印象を与える人だ。しかし、話し始めると、「言語明瞭意味不明」と要約できるような内容で、質問に対応した気候変動政策の答えができなかった。
次の首相にエネルギー問題の混乱是正を期待
ただし政策論争を見ると、かつてのように政治の場でエネルギー・原子力は主要な争点ではなくなっている。またこの10年続いたエネルギーシステム改革、再エネ振興、原子力政策の混乱を本格的に是正、検証するという主張はなかった。
今の日本のエネルギーシステムは、福島原発事故からの混乱の後始末が続いている状況だ。特に電力システムが脆弱になり、電力料金の上昇、停電増加が発生している。エネルギーの安定供給が「首相案件」になる程、日本の経済と社会に重要な問題になる可能性もある。原子力再生、エネルギー自由化の功罪の検証など、もはや官僚レベルでは対応できない問題になっている。
残りの期間で、今回の総裁選でどれほどエネルギーをめぐる議論が深まるかは不明だ。ただし、ぜひこの機会に経済政策、エネルギーをめぐる議論を深め、次の首相に対策を打ってほしいと思う。
石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com
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