嫌われた場合には?−ビジネスとメディアの交流方法(上)
目次
メディアに嫌われた業界の嘆き
「なぜメディアは原子力を嫌うのか」。筆者はフリーランス(組織に属さない)記者で原子力の発展を応援している。メディア界で原子力の味方は珍しい。そのためだろうか。原子力・エネルギー関係者から、東京電力の福島第 1 原発事故以来、メディアへの戸惑いと、部外者にいうと批判をされそうな質問を頻繁にされる。
「メディア」という言葉は多義的だが、ここでは「情報を提供する企業形態の媒体」と定義しよう。
ただし、この質問には適切に答えられない。日本新聞協会(新聞・通信・放送局が加盟)には129 社の加盟社があり、社員記者数は約 1 万 7000 人(2020年4月)もいる。それぞれの記者の原子力への向き合い方は多様だし、おかしな報道は多いが正しい情報を伝えるものもある。この答えの出ない質問から、原子力関係者はメディアの実態をよく知らないことがうかがえる。
それは当然だ。普通の社会人は自分の働く場以外の他業界のことを知る機会は少ない。メディアの記者たちが、原子力をよく知らないのと同じだ。原子力だけではない。他のビジネスの人からも、同じようにメディアとの付き合い方を頻繁に聞かれる。既存メディアの中と外で報道に関わった筆者が、メディアとの付き合い方と言う問題で私見を示すことは、業界外の人に参考になるだろう。そこでこの記事を書いてみた。今はS N Sを使い、「誰でもメディアの時代」だ。メディアとの付き合い方には、情報を発信する個人との付き合いや広報活動にも、当てはまる点があるはずだ。
部外者の人があまり意識しない、メディアの特徴は以下の3つがあると思う。
第一の特徴「メディアは刺激を求める」
「犬が人を噛んでもニュースにならないが、人が犬を噛んだらニュースになる」。
これはメディア業界にある格言で、筆者は新米のころ先輩からネタ探しの秘訣として冗談混じりで教わった。「刺激的なことを伝えるのが記者活動である」という意味だ。この格言は一般人が念頭に置かねばならないメディアの第一の特徴だ。
こうした発想を一般の社会人は異様に思うだろう。働く人は、現実と向き合い、それを正確に分析し、仕事で対応する。ところが、メディアは事実と向き合う際にその「面白さ」や「刺激」によって重要度を決める。この特徴ゆえに、10年前の原子力報道や、騒ぎにあり消えつつある統一教会騒動、メディアにとってネタとして飛びつきやすいものだった。「国家権力と悪い奴らが、悪いことをして、か弱い一般国民に害を与えた」という物語は刺激的だ。
こうした騒動は一過性だが、一般の人はメディアの攻撃に巻き込まれなように慎重に配慮しなければならない。巻き込まれたら、その嵐が吹いている時は、状況をなかなか変えられない。メディアの力は落ち、社会の主役ではないが、「炎上」に燃料を投下することはできるのだ。
第二の特徴「当事者でないから無責任」
「メディアは間違いを流し無責任だ」と批判される。そのような面は確かにあるが、報道する側から見ると少し違和感を感じる。メディアは、事実そのものに関与する当事者ではない。人々に情報を提供し、イメージを作る、いわば「触媒」の役割にすぎない。
もちろんまともな記者やメディアは事実を正確に描写しようとするが、刺激的なことを伝えるという第一の特徴につられて、間違いを報道したり、希薄な当事者意識のために無責任な結果を産んでしまったりすることがある。また中には、メディアで政治活動をするおかしな思想を持った記者がいる。これは部外者が留意しなければならないメディアの第二の特徴だ。
当事者意識の希薄さゆえに、メディアはそれを利用しようとする人たちのプロパガンダに、頻繁に利用される。職業的な政治的活動家は、広報活動に慣れている。そういう人たちは自分達の利益になる限り、情報を発信し続け、メディアを利用する。例えば、原子力ならば、反原発を掲げその運動を自らの力にしようとする政党や政治団体がいる。
新しいメディアも情報の流通に影響を与えている。2010 年ごろから個人発信のメディアである SNS サービスが登場し、今では日常に定着した。インフルエンサーと呼ばれるメディア並の発信力を持つ個人も出ており、ネットだけに配信するメディアも登場した。
こういう勢力は情報で「目立つ」ことを考え、無責任な態度を示しがちだ。「バズる」(ネットで騒ぎになるという意味)ことには注目される快感があるし、閲覧数(ビュー)が増えると連動したネット広告の閲覧も増え、金をより儲けられる仕組みも整備されている。
10年前に反原発と騒いだ人たちの SNS を見ると今は原子力に飽き、今は統一教会を騒いでいる別の政治テーマに飛びついて騒いでいる。虚しさを感じてしまう。
そうした無責任な存在であるから、攻撃されたら「どうせ彼らはいなくなる」と冷めた態度で動きを観察することが必要だ。また、批判される隙を作らないように、報道される自分、もしくは属する会社や組織がどのようにメディア、そして他人に映るかを念頭におきながら行動する必要もあるだろう。
【「かっこいい情報を上書きせよ−ビジネスとメディアの交流法(下)」に続く。対応法を記した。】
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