エネルギー、冷静になり始めたメディア報道−まだ続く東京新聞の嘘

石井孝明
ジャーナリスト
(写真)2017年9月のある日、東京・銀座のホテルで正午ごろに見た、無料配布なのに読まれず置かれたままの新聞の朝刊の山。今、誰も新聞を読まなくなっている。時代の変化とはいえ、メディア関係者として悲しい光景だ(筆者撮影)
(写真)2017年9月のある日、東京・銀座のホテルで正午ごろに見た、無料配布なのに読まれず置かれたままの新聞の朝刊の山。今、誰も新聞を読まなくなっている。時代の変化とはいえ、メディア関係者として悲しい光景だ(筆者撮影)

エネルギー情勢が緊迫する中で、今年夏ぐらいから日本のメディアの雰囲気も変わってきた。再エネの過剰賛美が一服し、エネルギー価格上昇や原子力活用を取り上げている。しかしイデオロギー議論を頑迷に続けるメディアもあり、大半は現場のビジネスパーソンの役には立たない。その傾向を分析してみる。

今時、新聞の経済記事を真面目に読んでいる人は、ほとんどいないだろう。経済記者の私は20年前、新聞を仕事のために6紙取って毎日1−2時間ほど読み込んでいたが、今はニュースのキーワード検索で、記事を必要に応じて集めるのみだ。新聞・テレビは売り上げが減っている。信用度と速報性が元々ないし、世論形成力も低下している。しかしメディアの情報を全く読まない人よりは多少WEBニュースを読み、問題やメディアの内情を知っているので、多少はこうした傾向を分析する記事の価値はあるだろう。新聞の報道を追うことで見えてくる社会の変化もある。

再エネ過剰賛美から態度を変えた日経

日本経済新聞は、9月26日に「エネルギー緊急提言」を行った。(記事)「原発活用の体制を国主導で再構築」しろという。一方で、7割を再エネにしろと、奇妙なお伽話を、いまだにこの提言で唱えている。日経は、最近、異様な再エネ賛美の報道を続け、エネルギーを知る人には呆れられていた。この提言で、少し現実に目を向けたことは、一応評価はする。日経の中の人に聞いたが、この提言には社内で確執があり、「編集局の中に何人かの再エネ原理主義者がいて、話を聞かない」(日経社員)という。

ただし、その原発についても「誰が金を出すのか」の重要論点は提言で検討されていない。さらに再エネ7割の割合の根拠、そうなった場合のコストとエネルギー供給の安定性も言及していない。再エネは天候次第で発電が不安定だからだ。経済ニュースは日本で一応トップのメディアと仕方なく消費者は認めているのだから、もう少し質を上げてほしい。

私は、原子力を活用しようというのが考えだ。しかしそれだけを推進すべきとも思わない。原子力、再エネ、LNG火力、石炭火力。それぞれ長所と短所がある。その電源構成のバランスを考えないと、エネルギーの報道に価値はない。日経の報道にはそれがない。

その点、産経はそうした視点に基づき論調がしっかりしている。原子力を過剰賛美しているわけでもなく適切な議論を社説や記事で展開している。残念なのは、記事の量が少ないことだ。一例として、産経の12月1日社説「原発の運転延長案 国家の計が弱腰では困る」では、今の原子力の論点である運転延長問題を過不足なくまとめている。経済担当の論説委員のI氏が優秀なのだ。

社説はひどいが、現場の記事は変わりつつある−朝日、毎日、NHK

一方で、原子力を攻撃してきた朝日新聞、毎日新聞、東京中日新聞、共同通信のエネルギーニュースは、偏向しており、大半が読む価値はないだろう。

12月1日までに、電力会社は5社が値上げを申請した。一方で、原子力を活用する関西電力、九州電力は申請をしていない。これを見れば分かる通り、原子力を活用できれば、安く発電できる。その当たり前の事実さえ、メディアは説明していない。(私の解説記事「原子力で明暗、電力会社値上げ−沖縄電4割超、月5900円上昇と突出」)今まで散々原発を批判したため、整合性が取れないので黙っているのだろう。

一例だが、朝日の12月1日社説「原発建て替え 山積する疑問に答えよ」で、まだ原発ゼロに固執している。日本経済の負担の警戒感をしっかり述べた産経の前出の記事と読み比べてほしい。質の低さがわかる。

最近のエネルギー政策の重要論点は電気・ガス・ガソリン料金の急激な値上がりと、政府の負担軽減策だ。これは消費者にとって喜ばしい。しかし、経済的にはエネルギー資源国に輸入国日本の補助金が流れるだけで、日本経済のためにはならないし、イノベーションにも関係ない。負担は22年度にガソリン3兆円、電力・ガスで2兆円の凄まじい金額になる。

こうした事実に、何の論評もしないメディアが大半だ。補助金を批判したら消費者に反発を受ける。根本原因は原発を活用できないためだが、それを指摘するとこれまでの反原発のメディアの主張と矛盾する。そのために逃げているのだろうが、その姿勢はずるい。

ただ、最近、再エネによる環境破壊、エネルギー価格の高騰、新型原子炉などの問題を淡々と述べる記事が増えている。これは朝日、毎日、東京でもそうだ。原子力をめぐる特集は変なものが多いが、経済報道では冷静なNHKもそうだ。個人のレベルでは意外に原子力に中立的な記者が多い。11年前の原発事故も経験していない。そうした報道には読む価値はあるだろう。

やめてほしい東京新聞の福島報道での嘘

ただし、今でも嘘は多い。朝日新聞は、「プロメテウスの罠」という福島事故の間違いだらけの報道を2013年から14年まで行った。その取材チームが、東電の職員が原発事故で逃げたという吉田調書をめぐる大誤報を14年5月に出して、現場から追放されたと聞く。その後遺症かかなり原子力では静かになった。

東京新聞の報道は相変わらずひどい。今年10月3日に「東電、処理水安全アピール実演、トリチウム検知できない線量計、セシウム高濃度でないと無反応、『印象操作』批判免れず」(リンクせず)という記事を掲載した。

「東京電力が福島第一原発の視察者に、放射性物質のトリチウムが検知できないうえ、セシウムについても高濃度でないと反応しない線量計を使い処理水の安全性を強調する宣伝を繰り返している」との内容だが、かなりおかしな報道で、炎上した。東京電力の説明文を読むと、実態はかなり違う。東京電力は「ご視察時の ALPS 処理水サンプルキットを用いた説明について」を出した。説明を要約すると、処理システムのALPSを通った水は、放射性物質が低減され、放射線量は微量すぎて人体に影響を与えないし、通常の機器では検知できない。それを説明したと、している

この報道は日本では批判で強く批判されたが、韓国メディアは揃って転載した。日本と185万人の県民のいる福島県をおとしめようとした(?)東京新聞の意図通りになった。非常に腹のたつ報道だ。こういうことは批判を向けていくべきだろう。

メディア内部の人の主張ではなく、国民が判断する情報こそ必要

日本国民は愚かではない。世論は明らかに変わり、原子力を活用し、安く安定的に電力を使いたいとの声が増えている。世論調査でも、単純な反原発は消えつつある。

ただ、今後も反原発で政治的に、金銭的に利益を得る人は騒ぎ続けるし、それに同調するメディア、一般人の活動は続くだろう。

民主主義のコストかもしれないが、私を含めた多くの国民の迷惑になるそうした人たちの行動を強権的に潰すことはできない。その実現のために、政府も電力会社も、水面下で低姿勢でエネルギー正常化の環境を整えていかなければいけない。ところが、メディアは平気で暴露し、それを壊そうするはずだ。それは仕方のないことかもしれない。しかし最低でも、公平な情報を提供し、嘘はつかないでほしい。問題に詳しくないメディアの意見など必要ない。判断する国民に正確で公正な情報を伝えてほしいのだ。そして、今の時代、そうした客観報道こそ、メディアの衰退を止め、読者に読んでもらえる唯一の報道と思う。偏向メディアの中の人に気づいている人は少なさそうだが。

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