エネルギー・原子力、世論を変える秘策とは?―気鋭コンサル倉本圭造氏に学ぶ「議論法」(下)
目次
エネルギー関係者「やるべきこと」をやったのか
経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造さんへのインタビュー。「上」(リンク)で対立を克服する方法を聞いたが、「下」では日本のエネルギーをめぐる問題の解決に、倉本さん流の議論法がどのように使えるかを聞いた。
(石井)−エネルギー業界、特に電力業界では、原子力をめぐる政治的な騒動によって、さまざまな問題が発生しています。
(倉本)私が外から観察すると、事業者も、消費者も、政治家も、行政も、反原発の政治活動家も、エネルギーのステークホルダー(関係者)それぞれが、自分の主張ばかり行って、一番大切なことに向き合わず、活動の方向がずれている印象があります。
エネルギーをめぐっては前提条件を理解し、それでも「茨の道を進んで脱原発も再エネシフトもやるのだ」という、国民的決断をするのならいいのですが、何をするのか目標がはっきりしない。脱原発を主張する人は、その政策で予想される問題を、本気で考えているようには見えない。
一方で、するべきことを、責任を持つ立場の人が行っていない。混乱に巻き込まれたかのように見える電力会社などの事業者には厳しい感想かもしれませんが、「やるべきことをやりましたか」と、言いたくなることがあります。問題があいまいなまま先送りされは、不健全な状態に放置されています。
私たち誰もが共通に考えることは、エネルギーで、価格が安く、安定的に、そして安全に使えるようにしてほしいということです。今は毎年電力が夏と冬に逼迫して大停電の危機になっていることや、再エネ賦課金の影響で電気料金が上がり、国際情勢の影響でガス・ガソリン価格が上昇しています。ウクライナ戦争で先行きも見えない。この問題について、国民に当事者意識を持って広く知ってもらうことが必要なのかなと感じています。先ほど述べた「われわれ感」と対話が、その当事者意識を作ると思うのです。
しかし政府からも、事業者からも、問題を明らかにして、みんなに考えを求める発信が少ないように思います。対話を逃げているように思うのですが、当事者の方は、私の感想をどう考えるでしょうか。知りたいですね。
−エネルギー問題は、どのような解決に向かうべきでしょうか。
目先のエネルギー問題では、「停止中の原子力発電所の再稼動を、安全を確認した上で急いで行い、電力の供給危機を避け、電力価格を抑制はするが、新規増設はまだ白紙のまま。しかし再エネ導入は諦めない確証を与える」というのが、あらゆる立場の考えの人が受け入れる落とし所かなと私個人では思っていますが、専門家の意見はどうでしょうか。そこから原子力の先行き、電力自由化の検証については、合意をゆっくり作ることが必要と思います。
原子力について、なんでも反対する人は今でもいます。けれども、その人たちの意見は、もはや大きな力になっていません。小泉純一郎さん、菅直人さん、鳩山由紀夫さんら元首相5人は、今年2月に原子力反対を主張するのに、「福島で子供に甲状腺ガンが増えた」とデマを流しました。それには大変な批判を集めました。それどころか、おかしな5人の言動は笑いの対象にもなっていました。こうした変な情報に動かされ、共感する人は、ほとんどいなくなりました。
原子力に関する状況は既に変わりつつある。そこでどうするか?
−変化を待つのは、遅いという意見もありそうです。この方法は正しいのでしょうか。
私はむしろ既に「かなり変化は起きている」と感じているので、そろそろ次の段階に入ってもいいと思っています。
あれだけ「脱原発」を言い続けていた小泉元首相が、健康上の理由とは言っていますがもうその活動をしないと発表されているのを見ました。各種の世論調査においても、原子力に対する国民の評価は随分と改善してきています。「変化を待つ」はここまで十分やってきたので、今後はそろそろ「ちゃんと主張する」部分が必要な段階が来るといえるかもしれません。
今までの日本では大事な課題が政治的なオモチャにされることが多すぎて、「なんとなく空気の変化を利用して国民の知らないうちにスルスルと通してしまおう」というような態度が政府やエネルギー関係者にあるようにも見受けられます。
そうではなくて、「今こういう施策が必要なのだ」という事をちゃんと大上段にメッセージとして発していくような事も、そろそろ必要なのではないでしょうか。昨今のエネルギー危機に対しても、皆が皆それぞれの立場から犯人探しを行っているだけで議論が全然深まっていかないのは、政府やエネルギー関係者が「こうあるべきだ」というメッセージを発することから逃げている事も原因の一つではないかと思います。
私はたいていの問題は、後から振り返れば「水が流れるように、落ち着くところに落ち着く」形になることが多いと思っています。社会問題に少しは人が影響を与えられますが、個人や一企業のできること、政府のできることは限られます。まずは先ほど述べた無理ない「落とし所」を達成することを目指すべきと、思います。
「争いのための争い」を仕掛ける人への対処法
−エネルギー問題では、原子力反対や企業攻撃を唱える人の中には、政治的、経済的利益を得る人、もしくは混乱を楽しむ人もいるように思えます。「問題解決ではなく、争うことそのものを目的にする人」はどの社会問題でも登場しますが、エネルギーでは特に多かったように思えます。
ある程度、そういう人はピシャリと言い返す必要があると思います。ただし余計な争いを起こし、潰し合いをする必要はありません。それをやると、無駄な労力が発生します。
「反対のための反対」をする人が、相手にされない状況を作ることを考えるべきでしょう。対抗策は、問題を解決しようと考える、まともな人たちを「真ん中」に集めることだと思います。政治主張で過激な行動をするのは、自ら信用を捨てています。紹介した元首相5人などは典型でしょう。
そうした人たちの思い通りにさせないこと、現実を動かして問題を解決し、私たちが幸せになることが、そうした反対派に、本当に「打ち勝つ」ことだと思います。多くの普通の日本人の人に信頼してもらえるような、状況を作ることが大事です。
おかしなことを以前言っていた人が、「本当は、原子力を活用すべきと思っていた」と、全く逆のことを述べて寄ってきても、エネルギーをまじめに考える人は、知らぬ顔をして受け入れて、過去の経緯や細かい恨みごとは捨てる度量を持ってほしいです。問題を解決して前に進むことが「勝利」です。そこで先ほど述べた、「メタ正義感」という大きな視点で、問題を考えるべきでしょう。
―議論で世の中が変えられるといいですが、倉本さんの今後目指すことを教えてください。
世の中の言論の大半は、「自分を売る」ためのものです。それは無意味ではなくて、それぞれの人の立場から見る世界を示してくれます。今は誰でも発信できるわけですから、ネットで売れっ子になる人が、いていいと思うのです。
私は、言論を自分のためというより、社会問題解決の道具として使いたいです。ファシリテーター、つまり相互理解を広げる調停者として、対話を通じて問題を解決していきたい。
日本に今、「このままじゃいけない」という、ふわっとした感情が社会に広がっています。具体的に問題を解決し、社会を前進させる前向きな人たちのまとまりづくりを、手伝って、自分の考えた「議論法」を実践していきたいです。エネルギー問題も、解決すべき、考えたい問題の一つです。(了)
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