何もしていない環境活動家グレタさんー反対の方法で地球を救え

石井孝明
ジャーナリスト
グレタさん。彼女のフェイスブックから。掲げているのはスウェーデン語で「気候変動を止めよう」という意味らしい

久々に名前を聞いたグレタさん

「グレタ・トゥーンベリ」という名前を久々にニュースで見た。1月17日に、ドイツの石炭開発計画がある寒村で、違法なデモをして警察に拘束されたそうだ。

彼女は20歳のスウェーデンの女性環境活動家だ。2017年から自国の国会前に、現役高校生なのに金曜日に学校を休んで温暖化問題への対応を求めて座り込んだ。なぜか彼女は欧州の左派メディアに祭り上げられ、さまざまなキャンペーンの先頭に立ち欧米の主要メディアに登場した。2019年には米国のニューヨークの国連気候変動サミットで、各国の首脳を前にスピーチを行った。

ところが2021年の英国グラスゴーで開かれた第26国連・気候変動枠組み条約締約会議(COP26)では、その国連事務当局から迷惑がられ、会場から追い出された。過激さが度を越したためだ。新型コロナと2022年のウクライナ戦争の後に欧州で気候変動への関心が急速に萎む中で、メディアへの登場も、少し減ったようだ。そのためだろうか、今回、警察に拘束されたのは、余計過激化して目立とうとしているのかもしれない。

グレタさんは抗議活動以外に、何かを成し遂げたわけではない。そして、その発言や行動を見ると不可解なことばかりだ。これまで、謎の資金源で、国際的に活動してきた。主張は共産主義的で、極左集団アンティーファ(Antifa)のロゴマーク入りのシャツを着ている写真がある。中国をあまり批判しないが、日本政府と企業は石炭火力発電の輸出で批判されている。日本国内でも、彼女系列の団体が企業に抗議活動を行なっている。その資金源と背景勢力は不明だ。

敵を作り、攻撃する、万国共通の左派の手法

彼女の主張の内容はおかしい。彼女の代表的な発言である2019年の国連気候変動サミットでの演説を見てみよう。(NHK「グレタさん演説全文「裏切るなら許さない」涙の訴え」)

要約すると、内容は左派活動家が使ういつもの論法だ。日本でも同じような論法を繰り返す人がいる。こんなのを聞いて、感動するという人がいたら「おめでたい」と思う。

①  【問題の単純化】グレタさんは、複雑な気候変動問題を、強い規制で解決できると主張している。

②  【敵を作り、自分を正義の立場に置く】グレタさんは「あなたたちを許さない」と大人たちを叱責している。外国人なのに、米国の共和党と、トランプ大統領(当時)には特に厳しい。当然米国の保守派は怒った。

③  【実現性の低い極端な政策を主張する】グレタさんは、温暖化防止対策で「解決策や計画は全くありません」と批判し、2017年に結ばれた対策「パリ合意」を無視した。そして、その主張は企業を攻撃する。

④  【事実ではなく感情に訴える】グレタさんは、気候変動により「地球が滅びる」「大量絶滅が始まった」としている。また彼女の発言はいずれも非常に感情的だ。スウェーデン人の彼女にとって英語は母語ではないはずなのに、演説では珍しい英語の罵倒語が散りばめられている。シナリオライターがいるのだろう。

⑤  【具体策、実行プロセスなし】グレタさんの主張には、実行までの具体性がない。そして実現は政治家頼みだ。けれどもこうすると、いつまで経っても政策が実現しないため、反対運動は継続し、運動体そのものは永続できてしまう。

グレタ式アプローチで失敗した気候変動の枠組みづくり

実は気候変動をめぐる国際規制では、グレタさんが望むようなアプローチはすでに行われた。そしてすでに失敗している。

1997年に決まった京都議定書では、各国が温室効果ガスの削減数値目標を作って、ギリギリ締め上げようという国際体制を作ろうとした。律義に削減努力をしたのは、滑稽なことに日本ぐらいだ。各国の間で不公平という不満が膨らみ、米国が脱退するなど履行する国も少なく2009年の温暖化をめぐるコペンハーゲン会議でその仕組みの継続は断念された。

温室効果ガスの中心である二酸化炭素の排出は、化石燃料の使用、つまりエネルギーの使用にほぼ比例する。豊かな生活を送る国ほどエネルギー多消費になる。人間が欲望を追求するほど経済は回り、二酸化炭素は排出される。その排出は、企業活動や個人の欲望の実現行為と密接に結びつく。そうした行為を、国際的な取り決めや政治家の号令だけで制約できるわけがない。グレタさんのようなアプローチは問題を必ずこじらせる。

そしてグレタさんの示す事実関係も間違っている。国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)という科学者のネットワークが6次にわたる報告を出している。そこでは温暖化をめぐる各国の主要研究を概観しているが、「地球が滅びる」「大量絶滅」というようなセンセーショナルな研究は、主流意見ではない。

グレタさんは、経済活動による温室効果ガスの排出を攻撃する。しかし温室効果ガスの削減対策は、省エネ、もしくはコストを払った対策、経済活動の抑制を伴う。世界では気候変動の防止策よりも、経済成長を求める人は多い。規制の強化は、豊かに暮らしたいという人々の願いを打ち壊すことにもなりかねない。

「責難は成事にあらず」―非難ではなく、実現に動こう

ではどうすればいいのだろうか。私は、社会問題の解決策を考えるとき、「責難は成事にあらず」(せきなんはせいじにあらず)という言葉を思い出す。小野不由美さんによる東洋風SFファンタジーシリーズ『十二国記』に出てくる言葉だ。

5つのポイントに要約した前述のグレタさんのアプローチは、いずれも「責難」だ。他人を責めてばかりいる。あらゆる環境問題でも、いや社会問題でも、グレタさんのような批判が、必ず存在する。しかし、その非難から、「成事」つまり何かが成し遂げられることはほとんどない。実際に、グレタさんは何事も達成していない。

私には、グレタさんと逆のことをやったほうが、温暖化が止める実効的な行動ができると思う。非難ではなく、協力して事を成すことを考えるのだ。つまり以下のようなことだ。

①  気候変動問題が複雑であることを認め、ステークホルダーの間の調整を丁寧に行い、単純な解決策を押し付けない。

②  誰かを敵にせず、正邪の区別をせず、みんなが協力できるようにする。

③  実現できる効果のある政策を、少しずつ積み重ねる。利で人を誘う。

④   感情を排して、事実に基づき行動する。

⑤   政治という面倒なプロセスではなく、多くの人が自発的に参加できるようにする。民間の力を使う。

実は気候変動をめぐる国際体制は、このような方向に切り替わっている。2017年のパリ協定では、各国が「できることを宣言し、その実行を遵守する」という緩やかな形になった。締め付けを行った京都議定書体制が壊れたことへの反省のためだ。

グレタさんら環境過激派はそれを「不満足だ」という。しかし、私はそうやってできることを、着実に実行するアプローチが、より現実的であると思う。気候変動と温暖化では地球のリスクではあるが、グレタさんらの言うほど深刻な危機ではない。世界には、貧困や今回の新型コロナウイルス騒動のような、いますぐ解決すべき問題も多い 。

そして日本の産業界には、世界を変える環境技術が揃っている。「事を成す」カードをたくさん持つ国だ。日本経済の没落が指摘され久しいが、発電・送電、省エネ、効率的な生産技術、自動車の燃費では、まだ日本は最高水準の技術、ノウハウ、人材を持っている。こうした力を活用し、世界の気候変動問題を解決しながら、日本企業が利益を確保し、日本人が豊かになることは可能だ。

「責難は成事にあらず」。私たち人類の進むべき道、そして日本の進路を、勉強していなさそうなグレタさんに教えてもらう必要はない。それどころか彼女の主張と反対のことをするべきなのだ。

1 件のコメント

  1. 山口雅之 より:

    全く同感です。

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