都市洪水よりも人権問題優先?岸本杉並区長の姿から日本を考える

石井孝明
ジャーナリスト

水害に関心のない岸本杉並区長

(写真1)都市洪水は、被害が巨大になる。写真はフランスの地方都市、イメージ(iStockより)

6月1日から2日にかけて日本を直撃した台風2号と梅雨によって、全国で風水害の被害があった。被災者の方にお見舞いを申し上げる。

私の住む東京でも災害があった。杉並区を流れる善福寺川が冠水したらしい。「らしい」と言う表現の意味は後述する。

(写真2)杉並区議渡辺ふじお氏のツイッター

ところが岸本聡子杉並区長のSNSのツイッターには災害情報、被災者へのお見舞い、感想はゼロだった。水害の起こった6月1日木曜日夜のツイートは彼女が熱心な性の多様性問題についてのものだった。この直後に、善福寺川で水が溢れた。
(写真3)岸本区長の6月1日のツイッター

そして彼女は6月4日日曜日にようやくツイッターで発信した。この日に地元消防団の防災訓練に出席したことを書き込んだ。そこで消防団への対応への感謝はあったが、台風での区民へのいたわりや心配、被災者へのお見舞いの言葉はなかった。いずれの行動も批判されSNS上では「炎上」した。
(写真4)岸本区長の6月4日のツイッター

【6月20日追記】笑えない笑い話として区長とその仲間の政治家たちが異様な行動をしている。岸本区長と区は6月8日になって、水害があったことを広報して、区の支援などの説明をホームページに出した。区長のツイッターの文言は、区役所のそれと全く同じでやる気のなさがうかがえた。区議会の防災委員会は13日に審議を行った。区長派議員はこの災害の質疑をほとんどせず、生理用品の備蓄中のタンポンの数、関東大震災(100年前!)の朝鮮人殺害問題の広報をせよと、区に提案した。優先順位がおかしすぎる。このままでは大規模災害で、杉並区民が死にかねない。首都直下型地震では、この地域は大規模火災の懸念がある。主要幹線道路が集中しているので、交通が混乱して災害が深刻になる可能性もある。

ツイッターが政治活動の全てではない。災害で避難が必要な住民は、区長のツイッターだけで情報をとらないだろう。しかし何も発言しないのは異様だ。彼女は自分の関心のある人権や多様性問題、選挙での親密候補者へのテコ入れでこの数ヶ月、毎日4−5回のツイートをしていた。杉並区の防災への関心の少なさと対照的だ。水害に際しての区長の動きはわからない。

トップがダメだと部下も組織もダメ

トップの無関心さのためか、杉並区の広報もおかしい。杉並区のサイトは、行政によくある「迷路」のようになっており、どこに、何が書いてあるのかわからない。この災害の状況もわからない。災害の経験と記録は、のちに必ず役立つはずなのに、それがない。ツイッターでは、杉並区の防災アカウントで1日の夜に国によって土砂災害警戒情報が出たこと、2日深夜に公民館など4箇所に避難所を開設したこと、2日朝に警戒情報が解除され避難所を撤収したことが書いてあったのみだ。区の対応もわからない。水害が起きた2日深夜は空白だった。

そして区は、複数の杉並区民が画像で示した冠水の情報を伝えていなかった。つまり杉並区で2日深夜に何が起きたのかわからない。区も区長も把握していないようだし、区民にどこで何が起きたのか知らせていない。もし冠水情報が間違いなら区は打ち消すべきだ。冒頭に「らしい」と言う表現を使ったのはこのためだ。ちなみに冠水とは水が溢れることだが、住居の被害がない状況に使われるようだ。その程度に水害が止まって、不幸中の幸いだった。

そして、いわゆる岸本区長派とされる区議会議員のSNSやサイトを見たが、「人権」情報ばかりで、「雨に気をつけてください」程度の言及しかなかった。彼女らも防災に関心がない。

杉並区、そして岸本区長の危機管理体制は、大丈夫だろうか。ネット情報で判断した限りだが、防災の観点から見ると区の対応が心配で、ここに住みたいと私は思わない。

治水は杉並区にとって重要課題

善福寺川は、杉並区善福寺を水源とする都市河川で神田川に流れ込む。コンクリートに覆われ、周りは住宅地で流域の保水能力が少なく、雨水がこの川に流れ込む。2005年9月に、この川が溢れて和田堀公園(杉並区堀ノ内)付近で氾濫し、3000戸が床上浸水をした。当時の山田宏杉並区長(現自民党参議院議員)は徹夜で全避難所を周り、住民避難の指揮をしたという。

(写真5)善福寺川と都立和田堀公園(東京都杉並区堀ノ内)。善福寺川は細い。(東京都公園協会HPより)

私は実家が遠くないところにあり、この洪水直後に現地を歩いた。翌々日に水はひいたが、夏だったために、泥と汚水の匂いがすごかった。住民の方が一生懸命掃除をしていた。都市水害の怖さを実感した。車や家などの資産がある場所で洪水が起きるので、損害額が巨大になる。

河川の管理は、国と都の仕事だ。東京都は2012年までに、善福寺川と隣の妙正寺川の護岸や浚渫(しゅんせつ、川の底を掘り深くすること)を行なった。費用は113億円をかけた。また国は国道の環状七号線の下に、ため池を作ってと神田川水系の水が流れるようにして、09年にそれは完成した。今回の水害が軽微だったのは、こうした対策が役立ったのだろう。しかし、住民保護、広報と避難は区の仕事だ。

どの地域でも治水と、災害時の避難は、生活を脅かす重大な問題だ。それに関心を向けず、人権とか性の多様性に熱意を向ける岸本区長と杉並区の行動は明らかにおかしい。岸本区長は、杉並区の出身ではないし、この水害の頃は海外の政治団体に属していて杉並区でそれを体験していない。都と国任せで、水害という超重要問題を区長も杉並区も忘れているようだ。

言葉の浮いた活動家

読者の方に、長々と東京ローカルの話をして恐縮だ。しかし、これは日本全体の今の問題を考える材料になると思う。日本はあらゆる社会問題で、解決の「優先順位」が間違っている。その例の一つがこの杉並区の防災問題と思われるためだ。

杉並区の岸本区長は東京の左翼の「プリマドンナ」になっている。彼女は2022年6月の選挙で、旧民主党系の前市長を破り当選。その際に、共産党、立憲民主党左派の議員が支援した。前区長のパワハラ、強権的運営を左派議員が批判、分裂選挙になった。

東京新聞が選挙中から彼女に「民主主義を守る女性候補」などと取り上げ異様な支援をした。朝日、毎日新聞も追随した。もはや「論壇」など、日本の社会に影響力がなくなっているが、そうした左派評論家や女性文化人が、そろって彼女を支持し、その発言を伝えた。岸本氏の発言は、抜粋しか見たことないが、民主主義とか人権とかきれいな言葉が並ぶものの、言葉が生活実感を伴わず浮いていて、発言に現実味がないと私は感想を持っていた。岸本区長の前歴は市民運動家だ。行政の実務経験はない。杉並区の住人でもなかった。そして1年経過しても、実績は大してない。

ちなみに、そうした文化人は今、公金チューチュー騒動で、世間の批判を集める女性保護団体ColaboとWBPCの支援者と重なる。世間一般では「うさんくさい」と思われる人たちだ。しかしそうした発言に影響を受け、投票をする人もまだいるらしい。

杉並区はもともと、左派の強いところだ。東京では「赤い中央線」と呼ばれる。中央線はJRの路線のことだ。自民党が弱く、生協の影響力がある。最終的には日本共産党に「乗っ取り」をされたが原水爆禁止の署名運動を1954年に始めたのは、杉並区の魚屋とその主婦たちだった。またここは全国で珍しく、極左暴力集団の中核派の支援候補が区議に1980年代から当選し続ける場所だ。彼らが集住しているのだろう。

どのような政治信条を個人が持とうと、どのような政治家を選ぼうと自由だ。しかしその結果、災害で対応ができない自治体を住民が作るのは、自分で自分の首を絞めることになる。

防災よりも政争のための選挙

そして岸本区長は、就任以来、人権とか性の多様性の保護という、区レベルで必要かと思える政策を連発した。議会と対立すると、岸本区長は変わった行動をした。

区レベルの首長は、議会との対立を避けるため普通は中立色を強める。岸本区長は、議会で自派を作る、選挙介入をするという異様な行動をした。投票マッチングと言う、有権者がネットで自分の考えに近い候補を見つけられるという仕組みを公費で導入しようとし、投票誘導でそれにお金は出せないと選挙管理委員会、総務省に断られた。

すると岸本区長は今年5月の統一地方選では、共産党や無所属など、党派を超えて特定の女性候補の選挙を支援した。選挙の結果、区長派は少し増えたが、区長与党は過半数を占められない。選挙後に開会した杉並区議会では、LGBT条例など今すぐ解決が必要とは思われない政策が連呼され、混乱しているという。

そこで今回の水害だ。大多数の住民には、国政がそうであるように、LGBTや人権や政争よりも、防災・治水の方が、切実で大切な問題だ。杉並区の人々、そして特にその分野で責任を負う岸本区長と行政組織としての杉並区は、優先順位の付け方を間違えている。

杉並区の失敗は日本の縮図

杉並区の奇妙さは、日本全体にも当てはまる。杉並区民にとっての善福寺川の治水の問題と同じように、日本国民が関わる安全保障や経済などの重要な問題は山のようにある。今、開催中の国会では、一部の国会議員が、そんな急いで決める必要がないLGBTQや同性婚の問題を与野党問わずに騒いでいる。安全保障、財政赤字、増税の問題が目の前にあるのに、不思議なことだ。

日本は一人当たりGDPが1990年代の世界2位から現在の30位に転落した。こんな急速に没落した国は珍しい。政治と社会が、この30年、改革だと言いながら、経済と社会の作り替えに失敗した。重要なことを判断できず、優先順位の付け方を間違え続けているためだろう。もちろん、何が大切かは人それぞれだが、99%の人の生活を左右する、防災や税など、大切なことに国も社会も関心を向けてほしい。

1%のノイジーマイノリティやそれとつるむ野党、利権集団ではなく、99%の真面目な、日本社会をを支え、納税をする国民に関心を向けてほしい。「人権」でご飯は食べられないのだ。

石井孝明

経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

12 件のコメント

  1. ムッタ より:

    この記事を全面的に支持いたします。

  2. 選挙に行きましょう より:

    先日の地方選挙で立候補した方に外国人参政権や条例について質問してみましたが
    知識がなくいい加減な回答をされがっかりしたことを思い出しました。こんな人が立候補してるのかと驚きました。
    投票する議員がどうなのかよく知らなければならない、雰囲気で投票してはいけないと改めて思いました。ちなみにその議員さんは落選しました。

    • 石井孝明 石井孝明 より:

      岸本区長は、本当に杉並区の現状を知っているのかと思います。調べると、帰国3ヶ月で選挙に当選、杉並区にそれまで関係なしというのはちょっとおかしいですね

  3. Brandyeyes より:

    区長が区域の土地柄、地政学に無関心基無知なのは致命的です。今回の件は一事が万事。区民の方には選択の結果として続くでしょう。だからこそ区民にも日頃から足が地に着いた居住地への歴史と特徴に誠意を持って学び向かい合う必要性と責任があります。その先にある選挙ですから。私は墨田生まれ在住で、全体がどんなに素朴さを軽薄に流行から古いetcと見られても結局土地への理解が比較的あり、多くが歴史の重さから防災に大きく生きていますのでそれなりに準備やケアは厚いです。

  4. Brandyeyes より:

    長く私も海外に出ていましたが、やはり元々の地元力を知らない方は、何処の国の何処の地域に行っても感性がないので理解できずに留まります。本来海外知識もきちんと学ぶべき所まで学べば、本来の地元力を生かす形で還元出来るのに。実際の具体的な技術や対応ではない、上からの絵に描いた思想を教えてあげる感が漂います。尊重なく移住者の感覚で上から為政をされると完全に侵略者と同じく、ただ擦り合わせなく野放図に明治維新を気取りながら持ち込まれると思います。

  5. Brandyeyes より:

    逆に言えば、本当に杉並区を想い、土地を愛して健康に共に活かしあって行きたい心ある区民が居られるのであれば、確かな地元愛を持って空論を抵抗し、内外を健康な目で見つめて学び、良い日本語で連携と構想をし、人も土地も良く育つ契機であると思います。
    無礼な長文失礼致しました。

    • 石井孝明 石井孝明 より:

      適切なご意見ありがとうございます。岸本氏は3人の有力候補の争いで180票差で当選。また帰国4ヶ月で区長。どうも変で、地元を全く知りません。海外のキラキラ政策をコピーしているだけで、問題です。

  6. Brandyeyes より:

    見ず知らずの輩コメントに丁寧なお返事有り難うございます。旗振りイメージに合っていた、でしょうか。ベルギーで本当にきちんと勉強なさったのなら、カトリックの多い土壌や如何に多言語統治が困難かフラマン語仏語ドイツ語、異名の言語戦争の文化的対立が未解決問題であるかお分かりになりそうなものですが。生活圏しか見えてないと別ですが。彼らは言語で国や文化圏を守りますが、日本語は討論に向かぬ言語。日本語へのご理解と日本の治政に不可欠な防災の重要度が無理解の土台に経験信仰を重ねてお戻りの様ですね。一素人目に見ても活動家と為政者は根本の職業と能力が違うと思えます。

    • 石井孝明 石井孝明 より:

      杉並区の外国人問題も怖いですよね。阿佐ヶ谷のネパール人は、極真空手を習った料理人が多く、親日的。ところが埼玉南部で、変なことをしているクルド人などが来ても何もしなさそうです。高円寺、阿佐ヶ谷には、昔からアナーキーな人が住んでいますし

  7. lookwider より:

    杉並区民です。日頃の疑問/不満点を表にあげていただき感謝しています。あの広報は斜め読みしてすぐにゴミ箱に投入しました。古紙おきばじゃなくて、ゴミ箱です。 河川の氾濫に対しての対応が無い事が気になっていましたが、本当に対応していなかったようですね。 選挙に関しては、男女平等を謳っていながら(実力があれば性は関係ない)、「女性」の区長を杉並にって喧伝していて、違和感の塊でした。それに投票しちゃう区民の情報収集・判断能力も問題ですが。。 引き続きよろしくお願いします。Twitterもフォローしています。

  8. 常在酒場 より:

    四代続けての杉並区民です。
    以前より民主党崩れの前区長を一度として支持したことがなく、関心が薄かったこともあって、今回の区長選は恐らく十年以上振りに投票を忘れてしまいました。
    結果前区長以上に酷い「活動家」が当選してしまうと言う事態に陥ってしまいました。

    まずは次回の選挙までの間、ふるさと納税で意を示そうと考えていますが、僅差であったことを知るにつれ投票の重要性、1票の重みを実感しています。

    これをお読みの方、候補者を選択するのは納税者としての権利です。我が区の如き惨状を招かないためにも、意に沿わぬ人間であっても少しでもマシな候補者を選んで後悔を最小限にとどめましょう。

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