解説・次世代原子炉−経済再生の重要技術
目次
ゲイツ氏などビッグネームが参加
次世代原子炉に、世界と日本で関心が高まっている。政府が開催した「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で岸田文雄首相は8月、原子力発電所の新規増設や建て替えは想定していないとするこれまでの政府方針を転換し、次世代炉の開発と建設を検討する考えを示した。
次世代炉は、ここ数年、米、英、仏、加の西側諸国に加え、中国、ロシア、韓国、インドも開発を進めている。原子力についてあいまいな態度を続けていた日本が、一歩進んだことは注目すべき動きだ。原子力発電のシステムを製造できる国は数少ない。米英は国内原子力メーカーが揃って事業を縮小してきたため、今になって日本の官民に建設の協力を呼びかけている。
米国では、著名慈善活動家のビル・ゲイツ氏が、投資家のウォーレン・バフェット氏と組んで、次世代炉への投資を昨年21年に表明した。2人の大物の登場で、米国の経済メディアの原子力への関心は高まっている。原子力発電は、二酸化炭素を出さず、さらに途上国の電力不足を解消する手段になる。そのためにゲイツ氏は原子力に注目した。さらに今年22年のロシアによるウクライナ侵攻と、それに伴う化石燃料の供給の不安定化が今年になって起こり、原子力の関心をさらに高めた。
日本では2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で、原子力への不信感が根強い。そして電力不足が起こり、停止中の原子力発電所の再稼働が、重要な問題になった。岸田首相が突如、次世代炉の開発を言い始めたのは、原子力への批判を避け、再稼働賛成の機運を高めようとする小細工と、私は推察している。しかし、小細工であっても、原子力技術のイノベーションが進むことは、いいことだろう。
次世代炉の種類は6つ
簡単にその開発の現状を紹介してみよう。経済産業省は、研究者を集め「原子力小委員会革新炉ワーキンググループ」で、次世代炉を調査している。以下の6つだ。
①革新軽水炉、②小型モジュール炉(SMR)、③高速炉、④高温ガス炉、⑤溶融塩炉、⑥核融合炉。
その長短を、私なりにまとめてみよう。(この点、文系の私の要約で、間違いがあったら指摘ください)
①革新軽水炉
今日本で使われている型の「軽水炉」の経済性・安全性を高めたものだ。軽水炉は今、第四世代と呼ばれる、4回の大幅な設計の進化があった。それを進めるものだ。長所は、既存技術の延長で、実現可能性が高い。短所は、福島事故の後で、このタイプの炉のイメージが良くないことだ。
②小型モジュール炉(SMR)
一般的な原子炉に比べ体積を小さくする。そのため冷却が軽水炉よりも容易になる。冷却装置の少なさと小型化で、コスト削減が可能だ。モジュールというのは、設計上の考えで、部品の機能のまとまりのこと。それを別の場所で作り、組み立て、量産化を図る。問題は、発電能力が小さいことだ。30万k W前後の想定が多い。今の軽水炉は140万k W程度。小さいと、採算が取りづらい。
③高速炉
高速炉とは、高速中性子による核分裂反応がエネルギーの発生源となっている原子炉を指す。日本は世界に先行して1983年にナトリウムを使った原型炉「もんじゅ」を着工し、発電を行った。相次ぐ事故で2017年に廃炉した。中国、ロシアが研究を進めている。長所はこれまでの研究実績があること。しかし「もんじゅ」の失敗があり、世論の承認が難しい。また冷却に安定性がないナトリウムを使うことで構造が複雑になる。
④高温ガス炉
高温ガス炉は、炉心の主な構成材に耐熱性の高い黒鉛を中心としたセラミック材料を用い、冷却材に化学的に安定しているヘリウムガスを用いる。安全性が高いことが特徴。日本原子力研究開発機構が、実験炉を運転しており、日本が世界に研究で先行している。ただ小型で発電能力が小さくあるから採算が取りづらい。日本は一度使った核燃料を再び再加工して使う核燃料サイクルの政策をおこなっているため、燃料が再利用できない問題がある。
⑤溶融塩炉
溶融塩炉は、液体燃料を用いる。トリウムを塩に溶かし込んで、反応炉の溶融塩を循環させ核反応させ、熱交換機を経由して水蒸気を発生させて、発電用タービンを回す。長所は、事故の危険性が極めて低い。短所は、溶媒である塩で基材の腐食を避けるため、構造が複雑になることだ。
⑥核融合炉
「地上の太陽」とも称される核融合発電は、核融合反応で発生したエネルギーを活用するものだ。核融合は数万度の熱を作り出せる。世界各国がフランスで実験炉を作り、参加している。ただしまだ実験の段階であり、作った超高温の熱エネルギーやプラズマを、どのように発電や熱利用するか、その技術がない。ちなみにSFアニメのガンダムシリーズは、このエネルギーが実用化された宇宙世紀の話という設定だ。
実用に近い日本独自技術は高温ガス炉
しかし、次世代炉に政府の旗振りがあっても、巨額の投資が必要であるため、電力事業者の間に盛り上がりは欠けている。メーカーは少しはやる気があるが、発注者がいないため、大掛かりに取り組めない。電力会社や経産省の中には、米国の研究に乗って、部分的に関わろうという意向がある。
日本独自技術で実用化に一番近いのは、高温ガス炉だろう。しかし、その商業化の話も、アイデアレベルではあるものの、具体化の方向にはない。
政府と岸田政権は新型炉の開発の構想を示した以上、その具体化のために政権が力を入れてほしい。特に、巨額の建設の初期投資の問題を解決するため、資金援助の仕組みを作ることが必要だ。原子炉は初期投資で新型炉でも数千億円の投資がかかる。経産省は電力料金に上乗せして建設費用を広く、薄く負担する、再エネ振興で使った方法を検討しているようだ。
次世代原子炉を作れる国は少なく、その一つが日本だ。輸出で日本全体が大きな利益を得られる。安い電力が作られれば経済は活性化する。こうした波及効果が期待できる。原子力は、日本経済の復活の種の一つになるかもしれない。原子力にさまざまな意見があることは認めるが、次世代原子炉のこうしたプラス面は是非、多くの人に知ってほしい。
1 件のコメント
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分かりやすくまとめて下さってありがとうございます。大変参考になります。
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