上海電力騒動、橋下氏は悪くない?−再エネの議論を

石井孝明
ジャーナリスト

上海電力騒動は何が問題か

(写真1)大阪市長時代の橋下徹氏(2011年6月、日本プレスクラブ会見記事より)
(写真1)大阪市長時代の橋下徹氏(2011年6月、日本プレスクラブ会見記事より)

元大阪市長下徹氏を巡る再生可能エネルギーの「疑惑」話の騒ぎが続いている。橋下氏が大阪市長時代に、中国企業の上海電力の大阪でのメガソーラー発電所の建設に便宜を図ったという批判だ。

ジャーナリストの山口敬之氏が雑誌Hanadaとウェブで今年6月から批判記事を始め、今でも続く。エネルギー政策を多少知る私が一連の報道を概観すると、橋下氏に説明責任はあるが、政治スキャンダルなどに発展する可能性はなさそうに思う。それよりも、これをきっかけに再エネ導入政策をめぐる議論が深まれば良いと、期待している。

疑惑は法的問題にならなさそう

疑惑とされるものは、中国の上海市の電力販売会社である上海電力の日本法人が日本企業と共同出資で運営し、2014年に運営を始めた大阪市南港咲洲メガソーラー発電所を、大阪市長時代の橋下氏が支援したというものだ。同社は中国の「一帯一路」政策の成功例とPRしている。

また同発電所のために当初に大阪市から土地を借りた事業者は上海電力ではなく、事業主体が変わって契約が不透明であり、ここに橋下氏がかかわったとの批判がある。橋下氏は知らないと主張している。上海電力は山口県岩国市でも事業を行っており、そこは米軍・自衛隊が共同使用している岩国基地の近くで、情報収集の意図があるとの憶測も出ている。

再エネ問題を知る人は、この程度の情報では、違法性はなさそうだと思うはずだ。

12年に始まった再エネの振興策であるFIT(固定価格買取制度)は、再エネ賦課金を電気料金に上乗せし、再エネで発電された電気を買い取る仕組みだ。

再エネ振興策に内在する問題、外資許容と無責任

日本のFITでは、日本と外国の再エネ事業者に差別的な待遇をせず、また買い取り料金が当初は高かったため外資が大量に参入した。正確な統計はないが、業界推定で日本の太陽光発電では15%程度を外国系企業が運営している。内外の企業に差別的な対応をしないことを求めるWTO(世界貿易機関)ルールがあり、日本政府はどの制度でもそれを律儀に守り、FITでも外資参入を阻止しなかった。他の国ではいろいろ理由をつけて、重要産業を守ろうとするのに、おかしなことだ。

またFITの買い取り価格を毎年、経済産業省は引き下げている。そのために買い取り価格の高い条件の良い権利は売買され、事業者は頻繁に変わる。この南港咲洲メガソーラーでも、それがあったようだ。それを問題にすることは難しい。

岩国の太陽光発電所は、その計画の一部を私は建設中の2013年に取材したことがある。これは大阪の発電所とは関係ない。ある外資系と日本商社の合弁であるエネルギー企業がこの発電所の大部分を作り、上海電力に2016年ごろ転売した。この発電所の周辺は、かつては今の日本によくある利益の出ない山林だったから、そのエネルギー企業は安く土地を買ったり、借りたりしていた。上海電力は国防上の意図で、ここを買ったとは考えづらい。

FITは事業者が配電設備を持つ地域電力会社と契約を結ぶ仕組みだ。大阪市の同発電所への関与は「土地を貸した」という部分に限定される。もしかしたら隠れた情報が今後出てくるかもしれないが、橋下氏が市長の権限を使って、上海電力に優遇して利益を与えた証拠は現時点ではない。

大阪・咲洲の太陽光発電所は「関電いじめ」の結果だった

この騒動では、橋下氏が疑惑を強く否定しているが、橋下氏嫌いの人たちが批判を続けている。もちろん橋下氏に説明責任はあるだろうが、法的な責任を問えそうにない。橋下氏は政敵を攻撃的にやり込め、自分への支持を集める。そのために敵も多い。この騒動も、そうした彼の行為への反感がもたらしたものだろう。また彼が作って今は離れた日本維新の会は最近、国政で議席を増やしている。政治的に同党の勢力をそごうと、騒ぎが広がった面がある。

この咲洲メガソーラー発電所は、エネルギー関係者の間では橋下氏の「関電いじめ」の事例の一つとして知られている。橋下氏の攻撃の矛先は2012年から13年にかけて、電力会社と原子力発電に向いていた。中国のために作ったのではない。しかし多くの人は忘れている。

当時は、2011年の福島原発事故の直後で、政治的立場を問わずに反原発、電力会社批判が広がっていた。橋下氏は、原発を抱えて経営に苦しんでいた関西電力を批判し、多くの人の喝采を浴びていた。彼は「原発の代替策の再エネ」「関電以外の電力会社」を訴えていた。そうしたパフォーマンス政策の一環で、大阪南港に大規模な再エネプラントを誘致し、この太陽光発電所ができた。彼の政策が今になって問題になっている。再エネでエネルギー政策の諸問題を解決しようとした政治判断の誤りは批判されるべきだろう。

問題は橋下氏ではなく、F I Tの「仕組み」

(写真2)太陽光発電の広がりは利益と混乱を同時に生んでいる(iStock)
(写真2)太陽光発電の広がりは利益と混乱を同時に生んでいる(iStock/anatoliy_gleb

しかし、この騒動を、無意味なものにする必要はない。せっかく、FITの問題に、多くの人の関心が向いたのだから、それを改善するきっかけになってほしい。問題では、2つの点の批判が多かった。外国系企業が日本国民や企業の支払う電気料金で利益を得ること。また電力という重要なインフラを担う事業者が、権利を転売するなど、かなりいいかげんな動きをする無責任さだ。これら2つはFIT制度上で規制されなかったもので、当初からおかしいと指摘されてきた問題だ。

この制度を政治主導で導入した菅直人元首相ら民主党の政治家の責任は重い。しかしそれを放置してきた自民党政権、経産省の当局者も当然、批判されるべきだ。

最近は電力が頻繁に停電危機に直面するなど質の面も低下して、事業者の供給責任が問われている。今回の騒動では、自分のお金が中国企業の利益になっている批判が多かった。「金儲けのためだけに、いい加減な事業者が、日本のエネルギーに関わることはおかしい」。日本国民によるそうした批判、違和感は当然のものだ。

アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏の名言に「善意で問題は解決しない。仕組みで問題は解決する」というものがあるそうだ。この騒動を「橋下氏批判」という属人的な問題に矮小化するのはおかしいし、再エネへの批判に結び付けるのもよくない。問題なのは「仕組み」である。もう少し大きな視点で問題を考え、再エネ振興策の検証と是正に、この騒動が発展的に解消するようにしたい。

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