現地ルポ・日本原電東海第二 安全性高める大工事を見る

石井孝明
ジャーナリスト

日本原子力発電の東海第二発電所(茨城県東海村、東海第二)を23年末に取材した。安全性向上のための対策工事によって、発電所の安全が大きく高まった。この大工事は県民の安心、そして再稼働の同意につながるのではないか。不安にとらわれることなく、ぜひ現実を知ってほしいと思う。

(写真1)巨大な東海第二の防潮堤(同社提供)

東京に一番近い商業炉、国策の象徴

東海第二では、原子力規制委員会が2013年に作った新規制基準に対応し、巨大構造物がいくつも作られていた。この基準は東日本大震災の教訓を活かして、安全性を高める取り組みを求めている。原電は24年9月の完工を目指す。

東海第二は1978年11月に運転を開始した。米国のGEと日立製作所が建設を担い、当時の世界ではまれな大きさだった出力110万㎾の発電能力を持つ沸騰水型原子炉(BWR)だ。原子力規制委員会は原子炉の運転期間を原則40年としていたが、この原発は安全対策の計画を出して60年までの運転を認められている。

2011年3月の東京電力の福島第一原発事故の直後から東海第二は停止した。ここは関東に唯一ある原子力発電所だ。首都東京に最も近く、社会の注目も大きい。建設の際には、原子力を推進する日本の国策の象徴と言われた。ここが再稼働をすれば、日本の原子力発電が福島事故から復活して再び前進を始めたことを、日本と世界に印象づけられる。さらに関東と東北では夏冬の需要期の電力不足と価格上昇に直面している。その問題を改善するだろう。

城塞のような巨大防潮堤

福島事故の教訓を生かし、東海第二では、「自然災害から発電所を守り、電源を絶やさない」「原子炉を冷やし続ける」「放射性物質を外部に漏らさずに地域環境を守る」との3分野の対策が行われていた。

第一の対策として、自然災害から発電所を守る取り組みが行われていた。東海第二は鹿島灘に隣接する。そこからの津波を防ぐために原子炉を「コの字」に囲む防潮堤が建設されていた。海側の防潮堤は海面からの高さが20mに達する。高さ14mの津波が押し寄せても大丈夫という。直径2.5mの鋼管杭を約600本並べて岩盤に届くまで打ち込み、鉄筋コンクリートで固めて厚さ3.5mの堅牢な壁にしていた。壁の全長は約1.7kmで城塞のようだ。

また電源確保の取り組みも行っている。外部からの電力が喪失した場合に備えて構内に非常用電源を複数設置し、移動式電源車を頑丈なコンクリート構造物内や高台に置いていた。

さらに自然災害での重要施設の破損に備えていた。主要設備には竜巻、突風による破損を避けるために鋼鉄の覆いが付けられていた。敷地内の施設は地震、火事などの災害に備え補強や難燃性のケーブルへの取り替えなどの対策が行われていた。

第二の対策として、原子炉の冷却機能が強化されていた。これまでの既存の設備に加えて、新たな冷却設備を作った。5000㎥の淡水をためる地下タンクが原子炉の隣に設けられた。それが機能しない場合に備えて、別の場所にも同様の水源を設置するほか、熱交換器などを冷やすための海水ポンプピット(貯留槽)も取り付けていた。

(写真2)東海第二発電所

巨額の対策投資 安全性は大幅向上へ

第三の対策として、仮に重大事故が発生しても放射能を漏らさず、地域の環境を守る取り組みが行われていた。原子炉の格納容器内からガスを放出しなければならない緊急事態になった際に、放射性物質を取り除く「フィルター付きベント装置」が建設中だった。これがなかったために、福島第一原発では、事故で外部に放射性物質が漏れてしまった。

さらに事故対策で司令塔になる緊急時対策所も敷地内の標高21mの高台に作り、災害対応車両を配備していた。テロ行為などがあった場合に、所員がそこに集まり原子炉を操作できる特定重大事故等対処施設(特重)の建設にも着手している。

東海第二の敷地は約20万㎡もある。その敷地内に、隙間なく物が置かれ、工事が進んでいた。東海第二の松山勇副所長は「既存の建物の隙間に新規構造物を作るために、敷地の余裕が少なく、難しい工事だ。しかし工夫と努力で課題を乗り越えてきた。地元の皆さまに安心していただける安全なプラントを作り、運営したい」と抱負を話した。

東海第二では、ここまでの大工事で事故の可能性が大幅に減少するのは確実。工事費用は約2350億円に上る。投資規模の大きさを考えると、早期の再稼働が求められる。

避難計画が課題に-求められる現実的な想定

東海第二の再稼働で問題になっているのは避難計画だ。福島事故の後で災害対策基本法が改正され、原子力発電所から30km圏では住民の避難計画の策定が必要になった。地元の東海村は昨年12月に避難計画を作成・公表するなど準備が進んでいる。ただし範囲にある14市町村のうち8つの自治体で広域避難計画がまだできていない。避難計画の不備を主な理由に水戸地裁は21年3月に東海第二の運転差し止めを命じ、今東京高裁で控訴審が続いている。

東海第二の30km圏内には約92万人が住んでいる。日本原電は、20年から地元の人々の個別訪問、説明会や車座スタイルの対話集会を開いて理解を広げようとしている。しかし、この安全対策工事を見る限り、周辺に住む人々の人体に影響があるほど、放射性物質が拡散するほどの事故が起こる可能性は極めて低いといえよう。92万人全員の避難が必要との非現実的な想定をするのではなく、起こり得そうな状況に基づいて現実的な計画を早急に立てるべきだ。

福島事故の経験から、原発の運用に不安を抱く人は当然いるだろう。しかし日本原電は電力会社とメーカーが出資して57年に設立された原子力発電の専業企業で、安全な運転によって地元茨城県の人々との信頼関係を作り出してきた。この徹底した安全対策工事がもっと知られれば、県民の不安は減るのではないか。問題に関わる人は、不安ばかりを煽るのではなく、工事の現実を見て、東海第二の再稼働で得られる利益を考えてほしい。

石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

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