かっこいい情報を上書きせよ−ビジネスとメディアの交流法(下)

石井孝明
ジャーナリスト

【「嫌われた場合には?−ビジネスとメディアの交流法(上)」から続く。メディアの特徴を分析した。】

【写真】溢れる情報。メディアとの付き合い方に正解はあるか(イメージ:iStock)
【写真】溢れる情報。メディアとの付き合い方に正解はあるか(イメージ:iStock/metamorworks

第三の特徴「貧すれば鈍する」

そして第三の注目すべき動きとして、メディアの衰退がある。日本新聞協会によると、新聞は 2000 年には約5300 万部発行されていたが 2020 年には約 3500 万部に減少。電通によれば 20 年の広告費はインターネットで 2 兆 7052 億円(他媒体との連動を含む)と増加する一方でテレビ広告は 1 兆 6559 億円、新聞 3815億円、雑誌 1224億 円、ラ ジ オ 1106 億 円 と 減 少 傾 向 が 続 く。ネットの隆盛と活字離れ、またテレビ離れで、どのメディア企業も経営が苦しい。

「貧すれば鈍する」で、収入の減少は報道の質の低下をもたらしている。経費をかけられず、現場に人を割けない。メディアは記事をネットに公開するようになったが、閲覧してもらうために言葉が過激に、そして記事が短くなっている。

放射能について過激な言説を出し続けた、ある反原発を掲げる環境経済雑誌の経営者と、2012 年に話したことがある。「過激な報道は雑誌の信用を落とす」と忠告すると「可能性があるなら危険性を報じるべきだ」と自説を繰り返し、「原発推進派か」と叱られた。さらに反原発を掲げる環境系企業の「広告を取りやすい」と本音ももらした。彼にとって反原発の主張は事実かどうかに関係なく、正義感を満たし、利益も得られたわけだ。ただし風聞では、同社の経営は現在うまくいってないようだ。

メディアを理解し前向きの情報発信を

メディアの現状で注目すべき 3 つの特徴を抽出した。それらは当面変わらないだろう。そうであるならば、一般の人やビジネスパーソン、そして企業は、それを念頭にメディアとの関係を構築するべきだ。

第1の特徴で示したように、メディアが面白いこと、センセーショナルなことに飛びつくならば、発信者は面白く刺激的な情報を提供すればよい。

メディアの批判という後ろ向きの取り組みではなく、前向きな話を形にし、それを社会に発信すれば,原子力をめぐる印象は変わるはずだ。他のビジネスでも、時代の流れにあった動きを商品やサービスに盛り込んでいるはずだ。それを強調すれば、メディア側は飛びつきやすくなる。

例えば、エネルギー・原子力について考えよう。原子力に新しいイノベーションが起こりつつある。気候変動問題への関心が集まる中で、原子力は温室効果ガスを排出しないエネルギー源として世界各国で注目を集めている。米国を中心に新型原子炉の開発が進む。筆者が新型原子炉の話をメディアに寄稿すると、いずれも反応は好評だ。東電の2011年の事故とは別の良い反響が生まれる。

第2の特徴であるメディアが当事者ではなく無責任であるならば、それを利用すればよい。当事者である会社やビジネスパーソンが現実を作り上げ、状況を動かして、後追いで報道させればいい。メディアは当事者ではないので、現実を作り出せない。彼らの力は世論に影響を与える以外は限定的だ。隙を見せて邪魔をさせず、広報する側の有利な時期、場所を選んで発表すれば良いのだ。

第3の特徴である、メディアの存在感は低下しているなら、それを利用すればよい。個人や企業が情報を発信できる時代になった。そして誤った報道には,ネット世論を味方にしながら正しい情報を示し、訂正を求めることができる。メディアを恐れることなく、また無駄な対立をすることなく、真実を報道して貰えばよい。

日本のメディアに問題は多い。けれども、中で働く人は優れた人も、ダメな人もいる「日本をよくしたい」という崇高な思いから、「組織で出世したい」という矮小な願いまで、さまざまな思惑で仕事をしている。メディアの中の人の思いを尊重し、情報の面で利益を与え、自分もその面で利益を得る「Win-Win」(共栄)の関係に持ち込めばいいと思う。

記事上の冒頭で原子力ムラの人が抱くメディアへの不信を紹介した。その気持ちは理解するが、批判や敵対しても意味がない。メディアと協力し、時には利用し、正確な情報を拡散する手段として、付き合えばいい。

どんな仕事でも、誰かのために役立つからこそ、対価をもらえて、社会に存在している。ビジネスパーソンの人がメディアに向き合う時、また社会に何事かを広報する時に、こうした対応を念頭に置けばよいのではないか。情報のブロックや取材拒否は、状況によるが、あまり効果はない。

そして今のI Tの各種サービスを使えば、メディアを通さなくても、広告代理店を通さなくても、自ら広報ができる。自分がメディアとして、多くの人に「刺さる」P Rを試すことができる。

「過去は変えられないが、上書きはできる」

最後に、筆者の考えを補強する意見を紹介したい。ライブドアの創業者で,証券取引法違反等で有罪となり服役したホリエモンこと堀江貴文氏と、遺伝子組み替え作物をめぐるシンポジウムで対話をしたことがある。

「科学的に正しい答えが無視され、感情的にこじれて先に進まない問題がある。遺伝子組み換え作物、原子力発電、ワクチン接種等だ。堀江さんなら、状況をどのように変えるか」と聞いた。筆者の要約と解釈によるが、堀江氏は次の趣旨の回答をした。

「全員の賛成を得るとか、メディアの支援を願うのは、あきらめるべきだ。無理だし時間の無駄。世の中には、理性が通じない話がある」

「過去は変えられないが、かっこいい情報を上書きすることはできる」

「PR で何が刺さる(注目されるという意味)か、分からない。題材はお金と余裕のある限りいろいろ試し、当たったらそれを掘り下げるべき。真面目路線では人の心に響かないし、その結果、世の中は動かない」

考えさせられる意見だった。堀江氏は逮捕、有罪、服役を経験した後で,今は言論活動や事業で復活している。こうした取り組みを重ねたためだろう。

多くのビジネスパーソンは、真面目にメディアを説得し、批判を深刻に受け止め、報道を変えようとする。しかし効果があったようには、多くの場合に思えない。それよりも前向きの情報を提供し、情報を上書きしていく方が、効果があるし、発信する側も楽しい。

メディアと対立するのではなく、あるがままの自分、そして属する組織、提供する商品やサービスを魅力的にし、それを伝える有効な手段としてメディアを活用すれば良い。対立よりも協力によってメディアと一緒と一緒に、「Win-Win」(共栄)の道を探る。ただし、メディアに隙は見せない。こうしたことがメディアとの関係づくりの適切な道と思う。

【広報については、今後取り上げていく。質問などあれば気軽にお問い合わせいただきたい。】

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