東京都の太陽光パネル義務化は「格差拡大政策」だ
目次
決まってしまったパネル義務化
東京都が新築住宅への太陽光パネルの設置義務化を、12月15日に都議会が環境条例の改正案を賛成多数で議決して決まってしまった。私はこれまで反対と考えていた。このサイト「&ENRGY」で取り上げたし、反対派の陳情にも協力したが、何も影響を与えられず、一介の記者にすぎない自分の力不足に虚しくなる。
これまで、人権の問題「小池都知事、ウイグル人の悲鳴が聞こえますか?-太陽光パネル義務化問題」、防災の問題「災害での感電、ガラス片…、太陽光パネル義務化で東京は危険な街になる」を指摘した。これらの論点に加えて、経済面の問題がある。
行政が、富めるものをより富ませる「格差拡大政策」「金持ち優遇政策」をこの義務化によって行おうとしていると、私は考えている。
家を建て替えられるのは裕福な人
新築住宅での太陽光パネル義務化政策は、国内で初となる。一定規模の建物では京都市などがパネル設置を義務化しているが、新築一戸建てでは日本初の条例となる。世界でも米カリフォルニア州など実施数は少ない政策だ。
都の制度は、大手住宅販売会社が販売する新築住宅の屋根に太陽光パネルの設置を義務付けるもの。東京都では温室効果ガスの大半を占める二酸化炭素(CO2) の全体排出量のうち、3割が一般住宅のエネルギー使用によるものと推定されている。住宅数(マンション等の部屋も一戸)で、東京は671万戸ある。(2018年、総務省「住宅・土地統計調査」)都は建て替えをきっかけに太陽光を普及させることを狙う。
また東京都の持ち家一戸建ての割合は、671万戸の住宅数のうち23%の154万戸、東京都の年の新築数は18年で7万戸程度に過ぎない。(同調査) 全国平均で持ち家率は61%、そのうち一戸建ては全体の4割程度だ。
東京都は、発電能力4キロワット分100万円分を出して設置をすると、売電して15年程度で元が取れると説明する。しかし、この認識は問題ではないか。東京で一戸建ての家を買う人は当然平均より収入が多いだろう。
常葉大学名誉教授の山本隆三氏に話を聞く機会があった。「日本で調査はないが、米国では太陽光パネルを購入し収入を得る個人の所得は平均より高い。日本でも同じだろう。そうした人を、より豊かにする。これは東京都による『金持ち優遇』『格差拡大政策』だ。日本全体の所得が低下している中で、行政がそれをしていいのか」。私はそれに完全に同意する。
再エネ補助金は全国民から徴収
また再エネではその発電による電気を、市場価格より高く購入している。その支払いは、全国の電力利用者から徴収した再エネ賦課金だ。その金は東京都以外の人も収めており、東京都の政策を全国民が負担している。再エネ賦課金は、22年度には推定4兆2000億円の巨額になる。この補助金の使い方に正当性があるのか、東京都は全く説明していない。前述のパネルに投資しても15年で回収できるというのは、こうした他人の負担によるものだ。
キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹に話を聞いた。太陽光発電の価値はせいぜい火力発電の燃料の節約分しかなく、火力発電所や送電線等への投資を減らすことはできない。「したがって温室効果ガスやCO2の削減効果はあまりない」という。太陽光は天候次第であり、それが稼働しない場合の電力設備を準備しなければならず、「二重投資になる」と懸念する。
25年の施行までに議論を深めよう
このように、経済性の面からも、東京都が突出してこの政策を行うのは問題だ。別の原稿でも強調したように、太陽光発電を否定する意図は私にはない。しかし、どんな物事にも場所や方法の適切なやり方への配慮がある。経済性の面でも、おかしな点の多い、新築住宅への太陽光パネルの義務化政策を、東京都が固執するのか、理解ができない。
しかも前回の記事で示したように、小池百合子都知事は問題点を精査することなく「目立ちたい」という目的でこの政策に肩入れしている可能性がある。あまりにもばかばかしい。
この条例の施行は2025年4月からで、周知期間と細則づくりの猶予がある。都民に問題点を知らせる、努力目標にして強制力のある政策にしないなど、法律を形骸化させる必要があると思う。
そして東京都の真似をして新築住宅のパネル義務化政策を考える自治体がある。神奈川県川崎市などでは、審議が進んでいる。そうした自治体の人と、地元の人々は立ち止まって、私がこれまでのべた、人権、防災、経済性の問題を考えてほしい。
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