中国製監視カメラが日本にあふれる危険

石井孝明
ジャーナリスト
私たちは常に監視される不気味な社会に生きている(iStock/ValeryBrozhinsky)

昨年11月末に宮台真司氏が襲われた事件で、犯人らしい人物が同12月に自殺していた。痛ましい結末だが、報道によると警察は各所の監視カメラの映像を繋ぎ合わせ、犯人らしい人物に同月中にはたどり着いていたようだ。

このように監視カメラは犯罪者の検挙や抑制に結びつく。しかし日本での運用実態は不明なままだ。そして中国製監視カメラが日本で広がりかねないという新しい問題が浮上している。これはあまり知られていない問題であり、その懸念を示したい。そして読者の皆さんと共に監視カメラの適切な使い方を考えたい。

約6億台の監視カメラが中国国民の生活をのぞく

中国での監視カメラの数は2021年末に5億6000万台と推定される凄まじい数だ。(モルドールインテリジェンス調べ)都市部に加え、中共政府が少数民族の弾圧を繰り返すチベットやウイグルに集中配備され、市民生活を政府がのぞき見している。

ハイクビジョンの監視カメラ。日本で売られている。個人向けで2台4万円程度、PC接続で簡単につけられるとお得だが…

中国の治安当局が活用する監視システムは、知ると恐ろしくなる精密さだ。大紀元(日本版)の2022年1月13日掲載の記事「監視カメラ大手ハイクビジョン、中共の人権弾圧に協力 活動を発見次第「警報」送る」によれば、そのシステムの姿は次の通りだ。

監視カメラから映像を得ると、AI(人工知能)で人の外見、特徴でどのような社会属性か、どのような行動かを自動的に振り分ける。例えば「ウイグル人」「法輪功」などの属性分類、「デモ」「暴動」などの行動分類が加えられる。政府にとっての危険度についてAIが一瞬で判定し、遠隔地から監視する治安当局が対処法を決める。人物の特定もカメラから集めた情報で行えて、追跡も容易だ。この映像データを、中共政府は保管しているようだ。

こうした状況を中国の市民は容認しているという。もちろん中国政府への恐怖もあるが、「幸福な監視国家・中国」(NHK出版)という本で、梶谷懐・神戸大教授は、「功利」というキーワードで、その不思議な反応を説明していた。

中国共産党政権は、監視活動で得た情報の一部を使い国民に金融取引や行政書類発行を簡易にするなどの利便性を提供し、犯罪削減の効果があったとプロパガンダを行った。また2019年から流行した新型コロナウイルスのパンデミックへの対策で、中共政府は当初、監視技術を駆使して人々の行動を制限して伝染病の押さえ込みに成功したと喧伝した。もともと共産党政権の下で人権意識が広がらないところに、そうした利便性があったために、中国の市民は監視を容認したと、梶谷教授はいう。

ただし自由の束縛はいつまでも続かない。ゼロコロナ政策の締め付けに昨年末ごろから、中国市民のデモの広がり、反発が伝えられている。監視社会への考えも変わりつつあるかもしれない。

監視実践で技術が洗練? 安さも強み

気になることがある。中国の監視カメラメーカー2社が、日本への販売を拡大しようとしているのだ。世界の監視カメラの販売は2019年で6480万台もあり、増え続けている(矢野経済研究所調べ)。このうちハイクビジョン(杭州海康威視数字技術)がシェアの約3割で第1位、ダーファ・テクノロジー(浙江大華技術)が約1割で第2位を占める。両社の強みはIT技術の活用と値段の安さだ。日本のキヤノングループが監視カメラの世界シェア3位だが、2社の製品の安さゆえに苦しい戦いになっているという。

中国国内での監視カメラの大量生産が、技術の進歩と値下げにつながっている。そして両社は、政府に協力してきた。ハイクビジョンの会長は全人代(国会)の中国共産党代表団の一人で同党の党員だ。「中国製監視カメラから、中国政府のデータベースに情報が流れること」(日本のI T企業社員)が懸念されている。

米英では、中国製監視カメラを警戒し、販売規制や公的機関の施設からの取り外しの動きがある。ハイクビジョン、ダーファの日本法人、米国法人のホームページは共に、弁明や該当国の法令を遵守することの誓約が掲載されず、沈黙しているのは不気味だ。

警戒感が薄いため、日本へ進出か?

中国製監視カメラをめぐる日本の官民の動きは鈍い。これら2社が日本での販売てこ入れに動いているのは、そのためだろう。日本国内の監視カメラは現時点で推定500万台とされるが、両社のシェアは10%程度だ。

ところが昨年、名前は伏せるがある大手警備会社が代理店になったという。いくつかの警備会社では、顧客に警備システムの設置を提案するときに、中国製監視カメラを選択肢にしているそうだ。両社も昨年から頻繁に説明会を行なっている。

大手警備会社は「安いから選択肢として提供している」(IT企業社員)ようだ。しかし、米英の政府や社会の危機感に比べると、かなり甘いセキュリティ意識と思う。こうした監視カメラによって、国内の企業や重要インフラの情報が、抜き取られる心配は考えすぎだろうか。

日本では、経済安全保障推進法が2022年に施行された。違法な情報収集や経済面での敵対的行動を取る中露両国への懸念が高まっているためだ。その法で定められた「基幹インフラ事前審査制度」が2023年以降に施行され、現時点で制度作りが行われている。電力や航空、金融など重要な産業について、経済安保上の脅威となる外国製品の導入、外国企業の介入を防ぐように、政府が企業に指導できる。ただし中国製監視カメラが取り上げられる可能性があるが、実際にどのように扱われるかは不透明だ。

監視カメラ設置をごまかした反動-関心広がらず、危険広がる

実は、日本では監視カメラでの官民の運用実態がよくわかっていない。他国にはある監視カメラの運用についての規制法もない。「個人情報保護法」で、そこで得られた情報の扱いに規制がかけられているのみだ。

国民がプライバシー、権利意識が強いことに加え、左派勢力が監視カメラに激しく反発する。そこで行政・警察も、企業も、表沙汰にする面倒を嫌がって、黙って設置を増やしてきた。監視カメラ網は今では全国に張り巡らされているようだ。前述の宮台氏の事件では、映像はどこまでが警察のものか、どこまでが企業や自治体が提供したものか、どのように使われたのか、よくわかっていない。おそらく警察は、この事件の捜査で使ったことはPRのためにメディアに公表したが、使い方は隠したのだろう。犯罪者や他国の諜報員が逆利用しかねないので、それを隠すことは必要だろうが、情報が提供されずに議論もされないのはおかしい。

だから中国製監視カメラの広がりという新しく出てきた論点にも、日本での監視カメラそのものの使われ方、実情の情報がないので議論や対応のしようがない。

私は、防犯や自衛のために監視カメラの利点を使いながら、当面は中国製の監視カメラについては、疑惑が解消されるまで扱いを警戒するべきであると思う。同時に、日本で公権力、私企業や組織などの団体にによる個人の監視も、暴走しないようにルールを設ける必要がある。

日本政府は、官民の監視カメラの活用について、議論をせずに配備するという姑息な手段をやめて、それを使える範囲を明確にするルールづくり、法整備を進めてほしい。今のままなら、日本国民への人権侵害の危険が残りながら、中国製カメラが知らないうちに使われて、国民の安全とプライバシーが脅かされかねない、奇妙な状況に陥ってしまう。

3 件のコメント

  1. 志村 より:

    クルド人問題等提起ありがとうございます。その問題から石井さんに注目するようになりました。

    そして顔認識システムに注目して頂けるとは余りにも嬉しい事です。ありがとうございます。

    顔認識システムは日本でもかなり前から水面下で導入されており、ほぼルール無き運用が現在もされております。

    長くなりましたので分けて投稿します。

  2. 志村 より:

    顔認識システムに登録する人は誰か登録したかも記録されず、登録理由に証拠も根拠も要らないのでその人の気分で登録出来る事から嫌がらせによる登録等がNHK番組でも特集されて問題視されています。

    ・NHKクローズアップ現代 https://twitter.com/yorukaze22/status/855291915855568905?t=sltWcu6v79AOu7JJeQ3pyw&s=19

    それに組み合わせるように「攻める防犯」と言うものが施行されております。
    これはメディア等でやっている側が主張する大きな声で挨拶する、対象の目につくように見張る、程度ではありません。

  3. Hank より:

    国内メーカーで監視カメラ事業に関係してから退職し、今は台湾メーカー(ACTi社)のNDAA(米国国防権限法)対応の監視カメラシステムの輸入代理店をしています。業界関係者と話すと中国製IT製品を使う事の危険性を全く理解していなかったり、米国等の排斥状況を全く知らなかったり酷いものです。IT大手と言われるSBが中国製システムを推進したり、LINEで露呈したように情報セキュリティ対策が杜撰だったりと、企業側の無理解が凄すぎるので、利用者側が賢くなるしか対応策が無さそうです。

コメントを残す

YouTube

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

最近のコメント

過去の記事