朝鮮戦争秘史・韓国政府が亡命要請 その時、山口県知事の対応は?
目次
山口県に「韓国」ができた可能性
「韓国政府が、山口県に6万人規模の亡命政権をつくることを希望」
朝鮮戦争が勃発した1950年夏、日本政府を通じて同県に打診があった。このとき、北朝鮮軍の南進で、米韓軍は釜山近郊まで追い詰められていた。
当時の田中龍夫山口県知事は「とんでもない」と拒否した。同県はそのころ食糧不足に苦しんでおり、亡命政権を受け入れたら大混乱は必至だった。幸い、戦局は好転し、打診は立ち消えになった。当時の日本は軍隊は消滅し、まだ自衛隊はない。韓国の武装集団は竹島がそうであったように、臨時政府を樹立したら、竹島がそうであったように、米軍がいても、日本の一部を乗っ取ってしまったかもしれない。
このとき、治安状況も深刻だった。
朝鮮戦争の直前、山口県内では、在日朝鮮人の「騒乱」事件が頻発していた。南と北を支持する2派に分かれて対立し、衝突が発生した。山口県は朝鮮半島に近く、工場が多く、下関なdなどは物流の拠点だったために、朝鮮人がまとまって暮らしていた。
朝鮮戦争前後に日本全土で、朝鮮人よる騒乱があった。県は政府と日本を事実上支配していたGHQ(連合軍最高司令部)の通達に基づき、県下の朝鮮学校を閉鎖した。反対する朝鮮人が共産党勢力と共に約1万人が48年3月、県庁を取り囲んだ。49年9月には、団体等規制令(現在は廃止)が適用され、県内の朝鮮系団体は解散させられた。
朝鮮からの多数の難民、しかし危機感高まらず
また朝鮮戦争勃発後は、戦禍を逃れて山口県の海岸から密入国する韓国・北朝鮮人が増えていた。日本全体では全貌は不明だが、諜報・工作活動のための侵入もあっただろう。
当時の警察資料では、1945年から54年まで、密入国者数の推定は3万から5万人。そのうち80%が韓国・北朝鮮人と推定されている。そして逮捕・強制送還者数は9000人程度だった。残りは逃亡して日本に居着いてしまったのだ。
密入国目的は当初、経済的理由が多かったとみられるが、朝鮮戦争の勃発は状況を変えた。難民や、戦乱回避、徴兵拒否などに加え、思想的・軍事的任務を帯びてスパイが密入国するケースもあったようだ。
当時の山口県民は目先の治安悪化に不安を抱いても、朝鮮戦争そのものに関心も危機感も少なかったという。「日本に勝った米軍が負けるわけない」「太平洋戦争の敗北で戦争はこりごり」という意識があったようだ。朝鮮戦争中は、米軍が国籍不明機が日本領空に接近した場合に、福岡県や山口県に空襲警報を発令するなどをしていたが、緊張感はそれほど高まらなかった。
朝鮮戦争が勃発すると、同県は、米軍からの物流や物資発注が増えて、経済が潤った。一方で、朝鮮人の暴動、米兵による刑事事件もあり、治安も悪化した。米軍に利用された日本の港湾・鉄道などで、朝鮮人・中国人によるものと思われる破壊工作もあった。
占領下の制限はあっても情報収集と準備
当時の田中龍夫山口県知事(1910~1998)は、47年に36歳の若さで県知事に初当選し、危機に備えていた。就任直後に「朝鮮情報室」をつくり、朝鮮に「密偵」まで派遣した。当時は敗戦前まで朝鮮総督府で働いていた人が、県庁職員として再就職していた。その人々の朝鮮語能力を使って、朝鮮半島のラジオや無線を傍受していた。
そして集めた情報で田中氏は「北朝鮮の侵攻による戦争勃発の可能性がある」と分析し、政府に連絡したが無視された。外交官出身の当時の吉田茂首相は、その国際感覚の鋭さに定評がある。しかし朝鮮戦争の勃発は予想していなかったと、多くの記録が残る。
また県は韓国政府の亡命が現実に起こる可能性を考え、亡命政府の避難キャンプの候補地調査をした。さらに警察の予算や装備の拡充に配慮し、米軍との連絡を密にした。戦争開始後は、米軍の兵士取り締まり、物資調達にも協力した。
田中氏は、田中義一元首相(陸軍大将・男爵)の長男で、南満州鉄道や企画院勤務、父の爵位を継いで貴族院議員として活動し、政治感覚を若くして磨いていた。のちに国政に転じ自民党の大物政治家となった。
田中氏の業績を発掘した、防衛省防衛研究所の庄司潤一郎氏は私が取材した際に次のことを話していた。
「当時は占領下で、日本の行政ができることは限られた。しかし山口県はトップの田中知事の鋭敏な情報感覚とリーダーシップで、できる限りの事前準備を行い、現実への対応ができた。適切な情報が正しい行動の基礎になる」
今こそ考えるべき戦争への事前準備
この田中知事と山口県の対応は、何を今に語りかけるだろうか。
今、中国軍による台湾攻撃の可能性が高まる。北朝鮮の核の使用や韓国との戦争の可能性もある。日本も当然巻き込まれるだろう。
その場合には、朝鮮戦争で山口県に起きたことが繰り返されるはずだ。中国、北朝鮮、ロシアの日本への全面侵略の可能性は現時点で少ないだろう。しかし中国や北朝鮮からの攻撃、軍ではない武装勢力の破壊行為、台湾や韓国政府の日本亡命、後方支援などは、起きそうな気配だ。
特に沖縄県は、台湾有事の場合にも、朝鮮半島有事の場合にも最前線となる。沖縄に駐留する米軍、特に空軍と、第三海兵遠征軍が、戦争の行末を決める。何も起きていない今はその存在が戦争の抑止力として機能している。
しかし危機感を持って動く政治家も行政担当者も少ない。緊張が高まる今こそ、過去の山口県と田中氏の取り組みを振り返り、生かすべきではないか。行政担当者だけではなく、一般国民もだ。最悪を想定し、事前準備を行うのだ。
ここで、私を含めて多くの人がうんざり感と共に、玉城デニー沖縄県知事の姿を思い出すだろう。彼は全国民の顰蹙(ひんしゅく)を集めながら、今年8月仮想敵国の中国を訪問し媚を売った。9月には米軍基地の存在を批判を続けるために、ジュネーブの国連人権理事会で、スピーチをした。
玉城氏には「有事に事前に備える」という発想がない。それどころか戦争準備を妨害している。おそらく有事の際には、あたふたと混乱するはずだ。しかし、その混乱は彼だけではなさそうな雰囲気だ。日本の政治、そして社会の各所で起こりそうな気配だ。
だからこそ今、歴史に学びながら、自分のできる範囲での戦争への準備をするべきであろう。それが無駄になることを祈りながら。
石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
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