効果ない電力料金抑制策−値上げで相殺の見込み

石井孝明
ジャーナリスト
エネルギー産業のインフラは巨大で政府がその先行きを動かすのは大変だ(iStock)
エネルギー産業のインフラは巨大で政府がその先行きを動かすのは大変だ(iStock/zhengzaishuru

総合経済対策で電力価格抑制策を打ち出したが…

政府・与党は10月28日、財政支出39兆円を内容とする「新たな総合経済対策」を閣議決定した。そこで電力料金の負担軽減策を打ち出した。焦点の一つとされた、上昇を続ける電気・ガス料金の負担軽減策については、標準家庭で月平均3000円前後の補助を予定し、早ければ来年1月から実施する。

私は、財政上の負担を増やすだけで効果がなさそうだと、10月24日時点で予想した。(記事「どれも筋悪、電力料金引き下げ策(10月24日時点)」)効果がない、負担がいつまで続くかわからないという、問題の多い政策だが、それは解決しなさそうだ。

総合経済対策によると電力での価格高騰への対策のポイントは以下の通りだ。

▶︎政策目標を「電気料金の上昇による平均的な料金引き上げ額を実質的に肩代わりする額を支援」と設定

▶︎家庭用で、kWh(キロワット時)当たり7円を補助。標準家庭だと月平均2000円程度の負担軽減。

▶︎企業などに対しては、FIT賦課金の負担を実質的に肩代わりする金額(1kWh当たり3.5円)の支援を行う。

▶︎1月以降の可及的速やかなタイミングでの開始を目指す。

▶︎一方、都市ガスについては「電気とのバランスを勘案した適切な措置を講ずる」として、1立方メートル当たり30円を支援する。標準家庭で月平均1000円程度の補助だ。全国の家庭のガスの半分を占めるLPガスについて「価格上昇抑制に資する配送合理化等の措置を講じる」にとどまり、補助はない。

▶︎その課金については、電力会社に資金を注入する形にしているが、制度の詳細は不明だ。報道では再エネ賦課金を減額するという案が有力だったが、前出の私の記事に書いた通り、再エネ振興政策と矛盾するために見送られたようだ。

終わりの見えない筋悪政策

しかし、これは「いつまで」行われるかはわからない。電力の市場規模は、小売規模で15兆円(21年)で今年は2割価格が上昇。上昇分は3兆円になる。これを今後、数年負担し続ければ、公的借金が総額1200兆円に迫るという危機的状況にある日本の財政の危険がますます増えるだろう。

日本の電力会社の経営が悪化している。日本の電力会社は自由化されたのに、低圧料金(主に家庭用)は規制がかかり、自由に料金を変えられない仕組みになっている(燃料調整費制度)。ところが、その料金が化石燃料の高騰で軒並み上限に張り付いている。しかも、原子力発電を過剰な規制でなかなか稼働できない。そのために、各社とも軒並み赤字に陥っている。

それを受けて、各電力会社は燃料費調整制度の範囲の見直しの申請に動いている。北陸電力が来年4月からの規制料金の値上げを発表し、中国電力、東北電力、四国電力の3社が規制料金の値上げ改定に向けた検討や準備を表明している。残りの会社も赤字で追随するだろう。燃料費調整制度の見直しによる電力価格の上昇は、原油価格とそれに連動する傾向にある天然ガスの値段次第だが、おそらく月1000円以内の上昇になるだろう。それによって、政府の支援策の効果も、打ち消されてしまうことになりそうだ。

原発再稼働と電力自由化見直しが急務

そもそも、こうした電力価格の上昇分は、化石燃料価格の上昇と円安によるものだ。日本が化石燃料をほぼ産出しない以上、主に外国に流れてしまう。国民経済全体から見ると、消費者が少し助かったと感じる程度で、経済活性化の効果は少ない。

今回の総合経済対策で政権が狙っているのは、旧統一教会問題で低迷する支持率の回復だろう。しかし、こうしたばらまきは、それほど役立った実感を有権者は抱けないだろう。さらに今年の冬は、電力不足の懸念があり、11月1日に西村康稔経済産業大臣は会見し、冬の節電要請を行った。

綻びだらけの電力供給体制の見直し、原子力再稼働は急務だ。しかし需要側へのばらまきではなく、そうした供給体制の強化はなかなか進まない。エネルギーは経済の根幹である。このままで大丈夫なのだろうか。効果のある原子力発電所の再稼働、そして電力自由化の見直しに、政府はなかなか踏み出さない。金利の上昇を促す日銀の金融政策によるインフレの抑制も、日本の国債市場を動揺させかねず、今は行えない。エネルギー主導のインフレを止めるのは、世界的な景気後退による物価上昇の沈静化しかない。

39兆円の経済対策とは、過去類例の少ない大規模なもので、政府はかなり気合を入れて作ったのだろう。落ち目の岸田さんも支持率回復の期待を持ったに違いない。しかし世論の反応は今ひとつだし、私の知見のあるエネルギーの面で見ても効果よりも問題の方が大きそうだ。「神頼み」が政策とは、非常に恐ろしいことだ。

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