どれも筋悪、電力料金引き下げ策(10月24日時点)

石井孝明
ジャーナリスト
(写真)電力会社経営者と会談し値下げに協力を要請する岸田文雄首相(22年10月12日、首相官邸H Pから)
(写真)電力会社経営者と会談し値下げに協力を要請する岸田文雄首相(22年10月12日、首相官邸HPから)

暇な野党の政治家たちとその同調者が税金を使って国会で統一教会騒動を続けている。しかし国会では物価抑制策が議論され、政府・自民党が検討している。そこで電力料金引き下げの政策が実行されそうだ。私たちの生活に密接に関わるために、この電力料金問題の現状(2022年10月24日時点)と見通しを簡単に説明しよう。

1世帯月2000円超の上昇、家計は厳しい

2022年に入り、ウクライナ戦争の影響などによる化石燃料の上昇、発電単価の安い国内の原発の停止などを背景に、電力料金が上昇している。2021年4月と比べると、22年10月(見込み)の電力料金は、規制されている家庭用電力料金(東京電力管内、低圧)で、1キロワットアワー(kWh)が25.2円から30円超に上昇した。一般世帯平均(家族3人弱)は同時期で月9400円となり21年4月と比べて2000円上昇している。これに約1000円の再生可能エネルギー賦課金が加わる。

また自由化されている産業用電力では、同じ期間の東電管内で、1kWhで高圧13.2円、特別高圧10円から、それぞれ19円超、16円超に上昇する見込みだ。日本の産業用電力料金は、21年時点で中国の3倍、米国の4倍前後とされる。この電力料金の上昇は産業の国際競争力にも響く。

こうした急な上昇のために、電力料金の抑制が経済政策の重要論点となっている。岸田文雄首相は、「国民一人ひとりが抑制を実感できる水準」「前例のない思い切った対策」と9月末に電気料金の引き下げで指示を出し、10月12日には電力業界の首脳を首相官邸に呼び、要請をした。岸田首相は、この問題を大きな政治テーマに自らした。

ただし、想定される引き下げ策はいずれも筋悪だ。実現性でも、コスト面でも問題がある。

再エネ賦課金引き下げの方向か

国民民主党の電力値下げ策の比較の表が分かりやすかったので、ここで示してみよう。燃料費調整制度とは、現在の電力料金の決め方で、火力燃料の価格変動を電気料金に反映させるための制度だ。

下げ方は、①再エネ賦課金を下げる、②燃料費調整制度に介入する、③託送料金(送電線の使用料金)を下げる、④現金給付する、以上の4つがある。

国民民主党は、再エネ賦課金を下げることを主張している。24日時点の報道では、この引き下げを政府・自民党は検討している。だから上記の同党の表では、再エネ賦課金の引き下げが、やりやすいように見せている。

料金値下げ策として燃料費調整制度に介入するのは、発電事業者、小売段階の事業者のいずれかに補助金を出すことになる。ただし電力の消費者の負担軽減政策なのに、その売り手で負担を与えている電力会社に税金を入れるのは、おかしい話になるし、また企業の国による支援は不透明さを伴う。また電力自由化で小売には約600社が参入しており、その数の会社に引き下げを実行させるのは手間がかかる。

託送料金の補助は、送配電料金の引き下げになるが、送配電網を持っているのは従来からある大手10社グループだけであり、彼らへの補助金になる。また、これに応じて小売事業者が値段を同じ割合で下げるか不透明だ。国民一人一人への現金給付を配る事務手続きが大変だ。

だから、やりやすい政策として再エネ賦課金の引き下げが注目されたのだろう。再エネ事業者はかつて地域独占をしていた10社に接続して売電しているので販売量の把握をしやすい。再エネ賦課金とは、再エネの導入促進のために、それで発電した電気を市場価格よりも国が設定した高値で送配電会社が買い、差額を電力の使用者から集めて送電会社が支払う仕組みだ。この制度を始めた2012年から、再エネの発電量は急増している。

法律上、経産大臣が賦課金の買取り価格を引き下げることができる。しかし突然の契約変更には、再エネの発電事業者から猛烈な反対があるだろうし、国家賠償を求める訴訟があるかもしれない。詳細は現時点(10月24日)で不明だが、引き下げた場合に差額は国が負担することになるだろう。しかし再エネ賦課金は、年4兆2033億円(22年度見込み)の巨額だ。大幅に下げたら、国の負担は大変な金額になる。また再エネ導入促進のこれまでの政策とも矛盾する。

原発再稼働がまだまし、しかしやらない

そして、どの方法を実行しても、「いつまで」「どの規模で行うか」、全く先行きが見えない。経産省総合エネルギー調査会基本政策分科会で9月28日に、有識者委員たちがそろってこの疑問を示したが、出席した西村康稔経済産業大臣も、経産省・資源エネルギー庁の担当者も答えられなかった。それは当然だろう。化石燃料価格の上昇は長期しそうで、その先行きは世界の誰にもわからない。1年で上昇した月2000円分を引き下げることが目標になるだろうが、どこまで続くかで国の負担は変わる。電力は電気料金で14兆円(21年度)にもなる巨大な産業だ。22年にはそれが値上がりで2兆円ほど膨らみそうだが、それを国が負担したら大変な金額になる。

そして日本のエネルギー価格の上昇は電力だけではない。ガソリン価格の上昇には今年の春から補助金で対応しているが、その抑制策の費用は22年度に約3兆円の巨額になる見込みだ。都市ガス、L Pガスの補助は今回検討されていないが、利用者や業界から価格を下げてほしいという要望が出ている。政府が補填ばかりしていると、財政赤字体質の日本の借金はますます膨らむ。

まとめれば、電力価格上昇を抑制するための効果的な政策はなく、実行したとしても、どれも弊害を伴う筋悪なものだ。

今回の電力料金の問題は、化石燃料価格の上昇と、日本での原子力発電所の稼働の遅れが理由だ。その原因を解消すればいい。化石燃料の上昇に影響を与えているウクライナ戦争を止めることは日本の力では無理だろう。しかし過剰規制で遅れている日本の原子力発電所の再稼働を行うことは政治の対応で行えるし、補助金をばら撒くより、遥かに効果がある。なぜ岸田首相は踏み出さないのか。とても不思議だ。

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