総務省文書騒動、架空報告で高市大臣を騙した可能性強まる?

石井孝明
ジャーナリスト

レク捏造の可能性は消えず

イノベーション戦略会議に出席する岸田首相と高市内閣府大臣。岸田首相は高市さんを助けていない(内閣府23年2月)

3月13日に総務省文書事件で、参議院予算委員会の集中審議が行われた。結局、事件の重要ポイントである、高市早苗氏に対しての官僚によるレクの中身は分からなかった。「高市さんが悪い事をした」というぼんやりとしたイメージだけが広がったが、そうではない。

まず結論を述べる。私は、ここに至っても分からないというのは、総務省側が嘘をついている可能性が強まったと思う。嘘をつく理由は、安倍晋三首相、高市早苗総務大臣の話を捏造し、彼らに嘘をついて政策を進めた可能性があるためと推測している。放送法と電波利権を守るためだ。

これは憶測に過ぎない。しかし、そうでもしない限り合理的に問題を解釈できない。

文書作成者のおかしな弁明

13日の国会の審議内容では、高市氏は以前からの発言を変えず、レクを受け対応を指示した、安倍首相と電話会談したなどの、自分をめぐる4つの文章については、自分は発言していない、またそもそも報告を受けたことがなく、この問題で、磯崎補佐官とも、首相とも、話したことも会ったこともなく、「捏造」との主張を続けた。

一方で、総務省側も、その作成についての事実を曖昧にし続けた。

国会での小笠原情報流通行政局長の答弁を文字起こしした。

「作成者によりますと「約8年前のことでもあり、記憶は定かではないが、日ごろ確実な仕事を心がけているので、上司の関与を経てこのような文書が残っているのであれば、同時期に放送法に関する大臣レクが行われたのではないかと認識している」ということでありました。

一方、当該文書に記載されました同席者の間では、同時期はNHK予算国会提出前の時期であり高市大臣に対し放送部局のレクが行われたことはあったかもしれないが、個々のレクの日付内容まで覚えていないとするものがあり、必ずしも一致していない部分がございます。以上を勘案いたしますと、2月13日に関係の大臣レクがあった可能性が高いと考えられます。」

野党と、批判者は、この「レクがあった可能性が高い」という言葉で、「高市が嘘をついた」と踊り狂っている。しかし、これは常識から考えると変な話だ。

調査でも嘘の疑惑を晴らせず

文書に登場する6人のうち、高市大臣と、秘書官(高市氏の政治任用?)、大臣室参事官(総務官僚)の3人はレクの存在を否定。同席した総務省の3人、退官した当時の局長、課長、作成者(西潟氏?、現役の総務省課長)は、レクの存在を明言せず、内容もぼやかしている。

私は記者だが、8年前に自分が書いた文書も、行った取材も、詳細な内容は覚えていないこともあるにしても、書いたか会ったか程度は即答できる。普通の人もそうだろう。それなのに、総務官僚3人は、曖昧な返事をしている。それがそもそもおかしい。前述の「レクがあった可能性が高い」という小笠原局長の発言は、文脈から考えると、この局長の推定以上の意味はない。

そもそも高市氏は、レクの有無ではなく、文章に書かれた内容がおかしい、自分は言っていないと、一貫して述べている。これが問題なのだ。これはこの答弁で説明されていない。

当時6人は公務員なのだから、その行動履歴は残っている可能性が高い。なぜ総務省はそれを付き合わせないのか。ここまでくると、総務省が意図的に問題の真実を隠している可能性が高い。私が捜査に参加したくなる。

総務官僚は、高市大臣に問題を報告せず、総理と高市大臣の発言と指示を偽造し、それによって政策を進めた可能性がある。小西氏の暴露からも、左派メディアや野党の騒ぐ「高市やめろ」騒動からも大きく離れ、話が何がなんだか分からなくなっている。政治的なバイアスから離れ、常識的観点から考えると、一番の問題は明らかにこの疑惑である。

改革を拒み続ける電波官僚

捏造の状況証拠はかなり「クロ」に近くなっていると思う。しかし首相と大臣の発言を捏造する理由が、役人側に乏しい。しかし電波行政の文脈で考え直すと、もしかしたらやる動機があるかもしれないと、私は考えるようになった。

私は電波行政はよく知らないことは断っておく。詳しい方から見れば、以下の仮説は、お笑いの話かもしれないので、お許しいただきたい。

日本の電波行政では、なぜか1970年代からのテレビ放送の仕組みが温存され、電波帯は国の財産であるにもかかわらず、私企業であるテレビ局が好き勝手に使っている。テレビ局は編集と編成の自由を持ち、膨大な利益を出し、影響力を持つ。私はこれを、おかしな仕組みと、素人ながら思ってきた。

今は全否定されている2008年からの民主党政権だが、発足当時はさまざまな自民党の作った利権を変える期待があった。政権交代時の正式な政策ではなかったと記憶しているが、民主党は政治家レベルでは「電波オークションの導入」「参入自由化」「電波使用料の引き上げ」「民営化を視野に入れたNHK改革」「外資解放」「ネットへの解放」「政府ではなく独立行政委員会が電波を管理する」を主張、もしくはそれを唱える非主流の改革派の研究者や経産省関係者と結託していた。

そうした改革の動きが民主党の原口一博総務大臣など仕切った政治家の無能(失礼ながら)と総務省、テレビ界、自民党の抵抗で、潰れてしまったと理解している。アイドルグループ嵐の桜井翔氏の父親の桜井俊氏は自民党政権下で総務事務次官に出世した。知人の電波行政に詳しい人によれば、彼は民主党の政策潰しとその後処理で辣腕を振るい、業界内で「掃除屋さん」とあだ名がついたという。彼はその論功行賞の結果か、電通グループの副社長に天下っている。

安倍政権の力への恐怖か

私が不勉強なのでその理由は分からないが、かっこいい事を言っても、古めかしく、改革を拒むのがテレビ放送界の民と官である。外国に比べて、この分野のサービスも収益力も遅れているのも、それが一因であるようだ。国民のための電波行政が行われていない。

そこに2012年に安倍政権が誕生した。この騒動の起こった2014年は、2015年に大騒ぎになった安保法制整備の前だ。安倍政権は派手な事をしない安全運転を続けていたため、支持率は高く、14年の衆議院選挙でも大勝した。安倍政権は、外政は見事だったが、内政については首相主導による大規模金融緩和以外、たいして問題意識もなく、改革を進めなかった。しかし安倍政権の権威と力は当時強かった。当時の雰囲気なら、強い国内利権でも、叩き壊せたかもしれない。そのエネルギーは安全保障問題の法改正にその後使われてしまった。

ただし安倍氏には、テレビとメディアへの過剰な批判報道が続いた。安倍氏は首相在任中はメディアに沈黙したが、第一次政権首相退任後、メディアの偏向報道批判を繰り返していた。

そこにこの事件だ。話がこじれて見えずらくなっているが、この問題は2014年末に礒崎陽輔首相補佐官(当時)がTBSの報道に怒って、放送法の解釈を変えられないか騒いで、総務省がなだめ、結局、少し解釈を変えたというものだ。

仮説・政治による電波改革を、大臣騙して止めた?

以下は私の仮説である。

礒崎首相補佐官がTBSに激怒した。私は見ていないが、礒崎氏の怒りの対象のサンデーモーニングは、とんでも番組として知られ、毎週安倍首相を出演者が罵倒していたようだ。その放送に高市氏も怒る可能性がある。安倍首相とより近い関係の高市氏も動いたら、そこから首相自ら動き、放送行政に手を突っ込んでくるかもしれないとの懸念が、電波官僚にあったのかもしれない。せっかく民主党政権の介入を排除した直後だ。

そのために電波官僚は、以下の謀略を行なった可能性がある。高市大臣と安倍首相、礒崎補佐官をそれぞれ切り離し、3人に、特に高市大臣に情報を伝えない。高市大臣には、小さい問題であるかのように錯覚させる。高市大臣と安倍首相を会わせない。この問題で、首相から穏便に済ませろという指示が出て、高市大臣がそれを了承したとの趣旨の捏造文書を省内的に作る。(実際に文書はそうなっている)政治家から法改正を議題に出させず、法解釈の答弁だけをさせる。経緯は公表せず、3人の政治家にも伝えない。ただし、少しガス抜きとして、礒崎補佐官の顔を立て、解釈を少しだけ強化する。その結果、放送法改正や放送行政への、政治による介入は行わせない。その表(おもて)の経緯を記したのがこの総務省文章だ。結果として、政治の介入は止まり、問題は一件落着した。

けれどこの仮説を自分で考えながら、そこまでやるかなとも思った。陰謀論にも見えてしまう。この登場する3人の政治家が問題を話し合う機会があったら、謀略がばれかねない。そうしたら、この役人たちは、社会人生命が終わる。首相を官僚が騙すなど、日本の歴史で比較したら、「満州事変」程度の大謀略だ。また、ではなぜこの文書が小西洋之議員のような「小物」にリークされたのかという謎も残る。経緯を知らない人間が、政府介入の証拠文章と勘違いして、この文章を漏らしたのだろうか。

しかし、仮に大臣レク内容を捏造していたと仮定した場合に、そういう変な解釈をしない限り、一連の行動の説明がつかない。

そんな憶測も必要ない、問題を解決する簡明な方法がある。文書に名前の出た元官僚を偽証罪に問うことができる国会の証人喚問で呼び出し、自民党が高市氏を中心にチームを作って、問いただせばいい。その結果次第で、刑事告発もあり得るだろう。

もし首相や大臣の発言を電波官僚が勝手に作って公文書に残していたら、大スキャンダルだ。

石井孝明
経済記者 &ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

私は2つの論考を、この問題で書いた。捏造可能性の指摘もした。

小西洋之議員の出した総務省文書の解説「無駄な騒ぎ」

総務省文書騒動の奇怪−官僚が大臣発言を捏造?

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