アセットマネジメントの世界 第2版

石井孝明
ジャーナリスト
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プロによる講義を分かりやすくまとめる

「アセットマネジメントの世界 第2版 新たな社会的使命と実践」(東洋経済新報社)は、アセットマネジメント(資産運用業)の現役のプロフェッショナル18人が大学生向けに行った講義をまとめたものだ。2022年10月に発行された。

私(石井孝明)は、この講義を全部まとめて要約を作る形で、制作に参加した。ただし、最終的にそれを編集し、分かりやすくまとめたのは早稲田大学ビジネススクールの宇野淳教授と各講師たちだ。

多くの日本人にとって、資産運用はなかなか馴染みがない。ところがその集まる資金、存在感は日ごとに高まる。資産運用会社の運用資金は2021年末で531兆円。銀行の融資金額が同530兆円で、経済で巨大なインパクトを持っている。こうした資産運用を通じた投資が日本経済を作り、個人の生活を豊かにし、老後を安定させるのだ。

知識を学生に伝え、社会的理解を深めようと、日本投資顧問業協会がさまざまな大学に実務者を派遣して、資産運用の講義をしている。実務者の話はとても興味深く、面白い。そして、大学生向けであるから分かりやすい。2010年にこの本の第1版が作成され私も関わった。好評を受けて第2版として最新の講義を紹介した。

読みどころ~金融商品の進化、ルール整備、アベノミクスの功罪

読みどころはいくつもあるが、ポイントを3つ取り上げよう。

一つは金融商品が多様化、進化し続けているということだ。10年前の第1班では、一般に馴染みの薄かったREIT(不動産投資信託)やETF(上場投資信託)が、主要な金融商品になり、日銀も購入するようになった。マーケットの分析手法もオーソドックスなものに加えて、さまざまな手法が開発され、ESG投資(環境、社会、企業統治へ配慮した投資)や、SDGsへの配慮が検討されている。

二つ目は、企業の自主規制の整備だ。安倍政権の時に、安倍晋三元首相が主導したわけではないが、東京の金融市場は取引や企業統治の自主ルール(コードと呼ばれる)が整備され、透明性が強まった。当時は安倍首相が、財政拡大と日銀の大規模金融緩和によるアベノミクスを主張。それもあって、外国の投資資金が呼び込まれ、東京市場は活性化した。

三つ目はアベノミクスの功罪だ。金融市場では、日銀が株価買支えのために購入したETFと、実質的に引き受けた国債の膨らみが異様なものとなっている。これらの後始末の大変さを、金融のプロたちは揃って指摘した。これはまだインフレと円安が顕在化していない2021年度下半期の講義なので、いますぐこれらが値崩れするとは誰も言っていなかった。しかし金融のプロの危惧は深まっていた。

金融への知識が乏しいと行動を間違える〜岸田首相を例に

2022年から高校の家庭科でようやく、資産形成の授業が始まった。日本では投資教育、ビジネス教育がほとんど行われなかった。日本の学校教育では「金儲け」の大切さを教えず、それどころか金を汚いものというようなことを言う教師も多い。右も左も学校教育に文句を言うが、私は経済活動、商売、投資を教えないことが問題の一つと思う。

政治家の経済の無知ぶりもひどい。岸田首相は「新しい資本主義」を2021年10月の発足時に掲げた。ところが政権発足から1年が経過しても、その中身を定義しない。22年1月25日には、「株主資本主義からの転換は重要な考え」と発言した。ここでも「株式資本主義」の定義はしないままだったが、これをきっかけに、今年1月25日に株が下落した。

この本でも金融市場の歴史が簡単に記されている。1602年にオランダ東インド会社が誕生したことが、株式会社の始まりだ。その時から、株式会社の存在意義は、利益を出して株主に配当を出し、企業価値を増やして株価を上げ、投資をした株主のために存在する。岸田首相は、その当たり前のことを否定するらしい。首相がそんなことを言えば、株式市場が動揺するのは当然だ。

それどころか、日本は投資家の期待を裏切り続けた、株主に冷たい国だ。

同書の図だが1991年12月末から2021年までの、主要国の株式市場のグラフだ。この10年はアメリカと新興国の金融市場が、歴史上珍しいほどの好調で上がり続けた年だ。1990年と比べると同期間に米国は株価指数が11倍、他の国の市場も上昇しているのに、日本はほぼ横ばいだ。バブル崩壊の影響もあったが、企業収益の乏しさ、投資資金の流入がないことが、その理由だ。

日本の金融市場を元気にすることが日本経済復活の第一歩だ。衰えたとはいえ、日本はまだG D Pも金融資産も、米、中に次ぐ世界3位の経済大国だ。そこに眠れる資金を投資で適切に使えば、再び強い経済を取り戻すことも夢ではない。

ただし闇雲に投資をしては損するリスクが高まるだけだ。それを避けるには、まず知識が必要だ。岸田首相を見れば分かるように、無知は怖いことだ。この本は入門書として、あらゆる立場の人に、適切な情報を提供すると思う。

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