電力自由化は妥当かー関西電力などカルテルの背景

石井孝明
ジャーナリスト
東京・霞ヶ関の官庁街(iStock)

関西電力、中国電力、中部電力、九州電力の4社がカルテルを結んだとして、独占禁止法違反で摘発された。課徴金の金額は、関電を除く3社合計で1000億円と史上最高額になる見込みだ。今後は、各会社からの異議申し立てがある。電力会社の法令違反は許されないものの、こうした違反を産んだ原因である電力自由化について、そのプラスとマイナスを立ち止まって考えるべきではないか。

電力4社の独占禁止法違反の中身

今回の事件は昨年12月に、公正取引委員会が公表した。2016年ごろから関西電力の呼びかけに応じて、各社の電力自由化に設けられていた管轄区域内で、他社が営業しない「相互不可侵」の約束をしたというものだ。公取委は大手電力3社に対して、計約1000億円の課徴金納付を命じる処分案(中部275億円、中国707億円、九州27億円)を通知した。このまま決定すれば課徴金額は国内の独禁法案件では過去最高額になる。

背景には2016年に低圧(家庭などの小口需要家向け)までの料金が自由化され、競争が激化していたことがある。課徴金が高額になったのは、高圧(主に産業)向け電力市場の規模が3兆5000億円と巨大であるためだ。

電力会社は、原発の停止、化石燃料価格の上昇や円安で、経営が軒並み悪化している。そこにこの巨額の課徴金だ。経営をさらに悪化させ、株主代表訴訟も起こりかねないだろう。また家庭用電力料金には規制が残る。経産省・資源エネルギー庁の電力料金値上げをめぐる公聴会では消費者からカルテル問題への批判が噴出。電力業界に敵意を向ける河野太郎消費者問題担当大臣も値上げ問題を取り上げ、業界を揺さぶる。

ところが、関電が、公取の調査に違反の自己申告をしてしまい、課徴金を免れてしまった。2006年に導入され、自ら違反行為をした企業がそれを申告すれば、課徴金などの処分が軽減されるという課徴金減免制度による仕組みだ。業界内も、関電への不信が広がり、相互に疑心暗鬼が発生した。かつてあった電力業界の一体感もなくなってしまった。

カルテルの背景は自由化と関電の積極営業

そもそも、関電は域外への進出に積極的だった。採算度外視の過激な営業をしていたが、2018年ごろからやめ、なぜかと話題になっていた。このカルテルがあったのだろう。

ただし関電が持ちかけ、しかも逃げることに成功したため、他の会社は、当然、関電に怒っている。そして言い分はあるようだ。「関電が勝手に持ちかけてきたが、独禁法に違反することがわかっているので、当然了承もしなかった。すると突然、営業攻勢を止めた。その行為をカルテルと言われるのは理解できない」(某電力幹部)という。

当然、合意文書は4社の間では存在しない。公取側も関電の社内メモをもとに、事件を組み立てたらしい。電力会社は、「お上(かみ)」に反抗しない文化がある。しかし、今回は電力側も抵抗しそうで、処分案がすんなり通るかは、現時点(23年2月末)でわからない。

過当競争を抑えたかつての電力システム

もちろんこのカルテル事件のような法令違反は許されない。しかし、私は、電力会社を追い詰めた状況も考えなければならないと思う。

電力ビジネスは投資規模が大きく、また巨大設備を使うため、巨大な電力会社が価格競争では有利になる。そして、他の商品と違って、事業者の参入と退出が容易ではない。一方で、電力会社があまりにも大きすぎると、非効率になってしまう。

1951年の戦後の電力体制は、その矛盾を解決しようとした。それまで、戦時体制のために、日本は1社の日本発送電が電力事業を独占していた。それを分割し、電力会社にある程度の規模を持たせ自立できるようにする一方、民間主導にし、産業用の大口電力からの競争を促した。電力の9電力プラス発電専業の電源開発と日本原子力発電の2社の体制だ。その後、沖縄電力が加わり10社体制になる。この仕組みを構想したのは大財界人で「電力の鬼」こと松永安左エ門(1875-1971)だった。彼は、戦前の過当競争で大変な思いをする一方で、官業の非効率を嫌っていた。この体制を作った1951年当時は電源不足が問題だったが、それが解決したら、産業用から電力会社間の競争を促させようとしていた。それは今考えても正しい構想だった。

電力電力の鬼ー松永安左エ門自伝(毎日ワンズ)

ところが、2011年の福島原発事故の後で、それまでの産業用のみの自由化から、いきなり全面電力自由化に動いてしまった。当時、なぜか「電力の地域独占がけしからん」「電力システムが原発事故の原因だ」と民主党の政治家、メディア、世論が騒いだ。冷静に考えると、この松永が考えた電力体制は、原子力事故とあまり関係がない。ただのヒステリーに基づく犯人探しに思える。そして私の理解では、経産省、当事者の電力会社も自分が批判されるのを恐れるため、このおかしな考えを放置し、全面自由化を認めてしまった。

もちろん自由化にはプラス面も多いが、いきなり行うことにはマイナスもある。自由化するにしてもゆっくりと進めるべきだった。それまで設備投資のために、一定の未来の投資分を電力料金の中に含める仕組みがあった。「総括原価方式」と呼ばれる。それがほぼなくなり、設備投資資金を電力会社は確保できなくなってしまった。その結果、現在は電力会社は、財源不足で原発や大規模火力の建設ができなくなり、電源不足が深刻になっている

東電が萎縮して動けない中で、安く発電できる原発を持つ関電が外に打って出て、価格引き下げの叩き合いになることは、当時から予想されていた。ところが、原発の稼働が遅れ、関電の経営も厳しくなった。そのために関電は矛を収めようとしたのだろう。カルテルもできず、原発も動かせず、値上げも批判され、化石燃料が上昇するなら電力会社の経営は悪化していくだけだ。そうした自由化のマイナス面は、顧客である消費者、産業界にも悪影響を与える。

電力自由化のプラスとマイナスを見極めよう

私は経済活動で、市場経済と自由な企業活動を重視しなければならないと思う。しかし各産業ごとに事情は違うので、その設計づくりは大切だと考える。日本の電力市場は今、さまざまな問題が、この10年の自由化のために噴出している状況だ。

今回のカルテル騒動では、電力4社は強く批判されるべきだ。しかし、その行為は自由化の悪影響の一つだ。その問題点を直視し、是正しないと、また別の形で問題が起こる。過当競争により共倒れ、もしくは関電、中部電、東電の大手「中3社」の優位が確立してしまう。

鉄、新聞、航空、通信など、インフラに関わる業種では、独占禁止法の例外として、価格競争を抑制する規制がある。同じような仕組みを考えていい。電力では、立ち止まって、その自由化のプラスとマイナスを見極め、慎重に市場設計や業界の公的ルールを見直すべきではないだろうか。

石井孝明
経済ジャーナリスト &ENERGY運営者
ishii.takaaki1@gmail.com

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