原子力再生の先駆け、国内唯一建設中の大間原発
建設中のJパワー(電源開発)の大間原子力発電所(青森県大間町)を3月末に取材した。2030年の完成を目指している。この発電所は日本で建設中の唯一の原発だ。燃料として核物質プルトニウムを利用するなど、日本の原子力政策やエネルギーの未来に重要な影響を与える。その現状を報告する。
目次
難工事でも進める重要な意義
大間原子力発電所の建設現場を訪問した日は、晴れだがすさまじい風が吹いていた。ここは日本原燃の六ケ所工場や、東北電力東通原発など、原子力施設が集積する青森県下北半島にある。その最北端である大間崎から約4キロメートル離れ、強風で知られる津軽海峡に面している。風速毎秒15メートル以上の強い風が大間では冬と春先を中心に年120日以上観測されるという。
この強風のために建設現場では原子炉建屋などの重要設備で安全に作業を進められるように巨大な覆いがかけられていた。(写真)過酷な環境での建設作業の困難を認識し、それを克服する努力に敬意を抱いた。
大間原発の発電出力は国内最大級の138万3000キロワット(kW)となる。炉の形式は安全性を高めた改良型沸騰水型原子炉(ABWR)で、日立GEニュークリアエナジーと東芝を中心とする企業グループが建設を行なっている。
5990億円の巨大プロジェクト、早急な稼働が必要
この発電所の建設は今、さまざまな意味を持つようになっている。5つの意味を示してみよう。
第一に大間原発は、Jパワーの経営を左右する重要な施設だ。発電設備を建設、電力を供給する国策会社として電源開発は1952年に国が株を保有する形で設立された。現在は民営化し、株式を東証プライム市場に上場している。この原発は2008年に国から認可が出て、建設が始まった。当初は2014年ごろの運転開始を予定していた。
しかし2011年の東日本大震災で、東京電力の福島第一原発事故が発生した。そのために、原子力規制がやり直しになり、大間原発も建設が遅れてしまう。建設費用は東日本大震災前に見込みで4690億円、震災後の追加安全対策で1300億円の予定で、合計5990億円という巨額だ。この投資は財務的には優良企業である同社にとっても大きな負担である。早急に完成、稼働させなければならない。そして、その際には大きな収益が見込まれる。同社は2030年度の運転開始を目指す。
第2に、大間原発の建設は、日本の原子力発電の技術継承の意味がある。日本で今、建設工事が行われている原発はここしかない。詳細に言うと、福島事故後の規制の見直し前に、ほぼ完成していた中国電力島根3号機(島根県松江市)と着工開始直前だった東京電力東通1号機(青森県東通村)の2つがある。この2つの工事は今、止まっている。
中国、ロシアは自国での建設を重ね、輸出に成功し力をつけた。日本の原子力産業は1990年代まで世界の原子力の進歩を牽引したが、その面影はない。中国企業は、同国内で22基、海外で数基、原子力発電所を建設している。
技術は使わなければ衰える。日本の原子力技術は、ウクライナ戦争以降、欧州を中心にロシアと中国への依存度を低減するため中露原発離れが続く中で、「自由陣営のもの」という政治的意味が強まっている。大間原発は、日本の原子力産業の建設技術を継承する役割を持つ。
地元経済に貢献、電力不足を変える
第3に、大間原発は青森県、大間町にとって財政と経済に貢献する重要な施設だ。稼働した場合には固定資産税、電源立地交付金などさまざまな収入を、県や町は得られる。現在の建設工事で、Jパワーグループは地元の約100人を雇用し、地元企業への発注もある。完成の場合には、同社社員や関連会社で約500人が常駐する見込みだ。
大間町の人口は4865人(2023年2月末)で過疎に悩む。マグロ漁で有名な町だが、街を歩くと工場などの働き口は少なそうで、日本の各地域と同じように過疎に苦しめられている。この原発の竣工と稼働は、地域経済に大きな貢献をする。県や町は繰り返し、同社と経産省に早期完成を要請している。
第4に、大間原発は日本のエネルギー供給のために必要なプラントになっている。電力はここ数年、夏と冬に不足気味で価格も上昇している。電力自由化によって発電所への新規建設が抑制されていることが一因で、この状況は長期化する見通しだ。東日本では原子力発電所の再稼働がさらに遅れている。大間原発から電力の大量供給があれば、その状況が変わる。2021年10月に決定された国の第6次エネルギー基本計画では、大間原発の早期稼働を国が支援することが明記された。
第5に、大間原発は核物質プルトニウムを消費する重要な場所だ。この大間原発はウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料が使える。「フルMOX」、つまり全て MOXで発電することも可能だ。
日本は核燃料サイクル政策を採用している。原子力発電から出る使用済み核燃料を再処理し、取り出したウランやプルトニウムを新しい燃料として再利用する。プルトニウムとウランの混合燃料はMOX燃料と言われる。プルトニウムは核兵器の材料になりかねないことから、利用目的がないものを持たないことが、日本の原子力利用でこれまで国際公約になってきた。
日本では国の研究機関や各電力会社などが使用済み核燃料などの形で所有している。また再処理して発電用に加工された形で、プルトニウムを約46.1トン保有している。それを燃料とする高速増殖炉の開発は現在止まっている。その増殖炉「もんじゅ」が2016年に廃炉になるなどのトラブルのためだ。大間原発は、MOX燃料を使うことで、プルトニウムを最大で年1.7トン消費できる。これはそれに貢献する。
建設は足踏み、審査の長期化や訴訟
こうした意義があっても、大間原発の建設は進んでいない。現地を見ると、広大な土地が整地されているが、その大半がそのままになっていた。原子炉付近の工事は止まり、周囲の道路、送電施設の建設のみが行われていた。
これは原子力規制に問題がある。Jパワーは2014年に原子力規制委員会に適合性審査を申請していた。ところが、この地域の津波や地震に関する審査が続き、その基準地震動が今も定まらない。
また対岸の函館市から国と同社を相手として、同社と国を相手として建設差し止めを求める訴訟が起こされている。住民訴訟は2018年の函館地裁での一審で差し止めを認めなかった。市による裁判は2014年から今も一審が継続している。
そもそも安全性の確認は、裁判には馴染まない。また民意は尊重されるべきだが、これまで述べた大間原発の重要性を知り、多くの人が大間原発の稼働で利益を得る事実を認識して、裁判による建設の遅れの問題を考えてほしいと願う。
私たちの生活を変える大間原発の完成
原子力をめぐる批判一色だった社会の雰囲気は変わりつつある。東電の福島第一原発事故の衝撃がようやく落ち着き、冷静な議論をできるようになった。さらにウクライナ戦争による化石燃料価格の上昇で、資源と経済安全保障を誰もが身近に感じた。日本は国の政策を転換し、GX政策の中で原子力を活用する方針を昨年から打ち出した。世論も冷静にエネルギーをめぐる議論をするようになっている。
そうした中で、多くの役割がある大間原発の意義を、ぜひ知ってほしい。この原発は停滞した日本の原子力を再生させ、日本のエネルギーを安定的に、安く、安全に供給するために役立つという大きな意味を持つ。それだけではなく、私たち個人が直面する電力危機、電力料金の上昇という問題を解決する一助にもなる。
注:この記事は国際環境経済研究所(IEEI)に寄稿した「原子力再生に重要な意味、建設中の大間原発の今を見た」を編集した。転載許諾に感謝を申し上げる。
石井孝明
経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com
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