トランプ氏再出馬のエネルギー・環境問題への影響

石井孝明
ジャーナリスト

米国で11月15日にトランプ前大統領が2024年に大統領選挙の出馬を表明したトランプ再出馬と、共和党の中間選挙での勝利が、エネルギー問題でのどのような影響を及ぼすのかを考えたい。

私は現地で当事者の取材はしていない。英語メディアの報道とこれまでの動きからの表面的分析だが、日本ではこの問題であまり情報がないので、問題を整理してみよう。

トランプ氏の2015年の選挙戦。スローガンは今回も同じらしい(iStock)
トランプ氏の2015年の選挙戦。スローガンは今回も同じらしい(iStock/olya_steckel

トランプ再出馬で政策復活か?

トランプ氏は15日に出馬を表明。まだ政策は打ち出していない。今年11月の中間選挙では、下院は共和党が過半数以上を占めた。(最終結果は30日時点でまだ出ていない)上院では民主党がわずかに有利になっている。事前予想と違って共和党の大勝利ではなかったが、それへの支持が強まっていることがうかがえる。そしてトランプ氏が、米国の政治に影響を与えていくことは間違いない。ただし現時点で76歳という年齢、2020年の大統領選の敗北、議会襲撃事件への批判などが残り、彼が勝てるかは不透明だ。

トランプ氏は大統領の在任期間中、石油、石炭産業の支援を行い、気候変動問題については「気候変動はない」とする論に飛び付かなかったものの、それによる社会と産業への負担は嫌い、米国の雇用を守るためとしてパリ協定を脱退した。また、国立公園でのシェールガスの採掘や、ガスのパイプラインの建設を認めた。これらのエネルギー政策を、民主党のバイデン大統領は就任直後に、ほぼ全てひっくり返した。

一連のエネルギー政策はトランプ色と言われた。確かにトランプ氏が積極的に取り組んだが、これは彼だけの考えではない。2016年時点での共和党のマニフェストにほぼ書かれたものだった。彼はそれを着実に実行しただけなのだ。仮に共和党が政権を取る、また勢力が強まったら、こうしたトランプ時代の政策は再び復活するかもしれない。

一理ある米国保守派の政権批判

最近、エネルギー・環境政策で目立つのは、共和党保守派の動きだ。彼らは2月のウクライナ戦争の後で、エネルギーを軸に、バイデン政権を批判した。

テッド・クルーズ共和党上院議員(テキサス州)は、バイデン政権の2つの過ちが、ウクライナ戦争を誘ったと、指摘している。21年に行われたアフガニスタンでの米軍の無様な撤退。そして同年にトランプ政権が課していたロシアからバルト海を通じてガスを供給するノルドストリーム2への制裁を、バイデン政権が解除したことの2つだ。

マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)は、世界最大のガス・石油の産出国であるアメリカが、自由に開発と輸出ができなくなったからプーチンがその輸出で利益を得て増長したと主張。バイデン政権は、オバマ政権と同じように、環境ビジネスへの投資を促すグリーン・ニューディールを掲げている。ルビオ議員は「最大の対ロシア制裁は、今すぐ愚かなグリーン・ニューディールをやめることだ」と述べている。

2人の発言は保守系のFOX Newsで今年3月配信されているのを私は見たが、同趣旨の演説やTwitterを共に繰り返している。そうした意見への共感も、米国内でかなり多い。今後、こういう認識と主張が、米国で一定の割合を占めるはずだ。そして、その主張は有権者に響きやすいし、実際に米民主党が弱腰に見える面がある。トランプ氏は、この同党保守派を基盤にしており、この影響力は2024年の選挙に向けて強まるだろう。

どの方向にも動きそうな米国の情勢

2人の議員の発言は誇張された面がある。米国の産油量は、連邦、各州政府の政策が影響することは確かだが、市場原理によって左右される点が大きい。その産出は3−4年前に大幅に減ったが、直近2年ほどはエネルギー価格の上昇を反映して、増加している。しかし政治では事実よりもイメージが大切だ。「バイデン政権と民主党が政策の失敗で、エネルギー価格を上げている」という主張は、共和党支持者の耳に心地良いだろうし、トランプ氏もそこを攻めてくるだろう。

ただし民主党、共和党で共通する政策はある。米国は、議会の立法権限が強く、それが具体的で行政府の動きを拘束する。8月に民主、共和両党合意の下に成立した「インフレ抑制法」は、10年間で約3700億ドル(約55兆円)のエネルギー・気候変動関連の支出をすることを決めた。補助金、アメリカらしく税額控除で支援をする。再生可能エネルギー、小型モジュール炉、水素製造、E Vなどが対象になっている。今後、これらの産業への支援はアメリカでは続きそうだ。政策が選挙次第で動く点、変わらない点の双方がある。

気まぐれな外国の民意に巻き込まれないように

エネルギー・環境分野では日本で米国の政策、企業の影響が強まっている。日本経済の力が低下するにつれ、日本経済は以前にも増して為替変動や米国の景気に左右されるようになった。日本の原子力規制政策は米国のコピーだ。日本は米国でのビジネスで収益を上げる企業は多い。重電や原子力では、米国の日本の重要な輸出先だ。さらに社会の力が弱まっているためか、エネルギー・環境をめぐるサービスやアイデア、思想などは米国発のものが多い。

気候変動交渉では、日米が協力して結んだ国際協定を2回も米国が脱退した。京都議定書とパリ協定(バイデン政権では復帰)だ。もちろん世界の大きな流れは米国政府でも変えられないだろうが、微妙に影響を与えるに違いない。

民間では、ある国の政策に連動した過剰な環境配慮投資は危険だ。政府も民間も、米国の政策に縛られた行動をするのではなく、いつでも気まぐれな外国の民意に巻き込まれず、米国政府の勝手な方針転換に対応できるように、柔軟な構えをしておいた方がよさそうだ。またメガトレンドである環境配慮の流れ、原子力復権の動きは注目しつつも、それに入れ込まない態度も必要だろう。

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