台湾有事、日本にエネルギーが来なくなったら?

石井孝明
ジャーナリスト
中華民国国旗と兵士のシルエット(iStock)

台湾有事の図上演習、日本の被害は甚大

1月9日に米戦略国際問題研究所(CSIS)は,台湾有事を想定したシミュレーションのレポートを公表した。 24通りの結果が出されている。要約すると、中国が台湾に上陸、占領を試みても、米、日が参戦すれば海空軍で台湾は守られる。上陸されても、現有兵力では撃退される。しかし中国も日、米、台湾軍はいずれも大変な被害が起きるというものだ。(CSISサイト:The First Battle of the Next War: Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan

この研究では、日本には中国側から、沖縄、岩国、佐世保などの米軍・自衛隊基地に、巡航ミサイルの攻撃が繰り返される。また米軍に協力し、海上交通線を守ろうとする自衛隊と戦闘になる。

CSISリポートの表紙:The First Battle of the Next War: Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan

戦争前には、どの軍も、政府もこうした演習をしている。中国軍も当然やって、似た結果を出しているだろう。常識があれば、中国は戦争を仕掛けないはずだ。

しかし中国は、台湾の独立を許さず、併合するという立場を国の基本政策にしている。そうならば、採算性、人命を度外視しても、侵攻する可能性は十分にある。

毛沢東(Wikipediaより)

今の中共軍の創始者は、初代国家主席の毛沢東だ。彼の言葉に、「敵進我退(敵が進めば退き)、敵駐我攪(敵が駐まれば攪乱し)、敵疲我打(敵が疲れれば攻撃し)、敵退我追(敵が退けば追う)」という原則がある。正面攻撃では現時点の兵力で「成功しない」ならば、もっと少ないコストで成功する別の方法を試みるだろう。

それが海上封鎖だ。私はすでに、日本がそれに脆弱であることを指摘した。(with ENERY記事「台湾危機、日本はエネルギー切断で戦わず「負け」」

上記のCGISのシミュレーションは1ヶ月ほどの期間を想定している。しかし、そこから先が問題だ。戦争しなくても、東シナ海、南シナ海を封鎖し、日本がエネルギーを遮断され、崩壊して中国に屈服してしまうかもしれない。上記のCSISも、日本が基地使用、米軍との共同作戦が前提になっている。日本が脱落したら、台湾侵略も成功してしまう。日本の中東との海上交通線は下の図を参照してほしい。台湾近海を通るのだ。

日本までの海上交通線(SLOC)。台湾沖を通る

エネルギー途絶の場合、日本は1ヶ月持たない

前回の論考の続きで、日本の各エネルギーが海上封鎖でどの程度耐えられるか気になった。すると、エネルギー・環境政策研究の第一人者である杉山大志キヤノングローバル戦略研究所研究主幹がすでに調査をしていた。

日本のエネルギー備蓄量、杉山大志氏論考リンク・エネルギーフォーラム「想定すべき海上封鎖リスク 日本に「エネルギー継戦能力」はあるか」)

石油は、民間だけで78日(図の青い色付きの部分)、国家備蓄も加えると150~200日は可能だ。LPGも55日の民間備蓄はある。ところが石炭は最近の気候変動で悪者呼ばわりされたためか在庫は少ない。また石炭は大量に備蓄すると火災の可能性があるので、買いだめを電力や発電設備を持つ会社は嫌うのかもしれない。

LNG(液化天然ガス)は、ガスを超低温で液状化するため、その冷却の手間がかかり、早く使わないと気化して大きく減ってしまう。そのため各社とも保存は極力減らしている。

こう考えると、海上封鎖をされた場合、もしくは台湾有事が起きた場合、その影響が1ヶ月以上続くならば、日本経済は化石エネルギー不足の面から崩壊してしまう可能性がある。

こうなると、備蓄を考えなくて良いエネルギー源として、原子力、再エネの存在が重要になってくる。原子力発電では、一度装填すれば何年かの運転は可能だ。ただし法律上は13ヶ月に1回の定期点検をしなければならない。ウラン燃料はオーストラリア、カナダ、アメリカなど外国から購入しているが、それが一度に途絶するリスクは少ない。

原子力発電所が攻撃対象になり、その破損によって放射性物質が拡散することを懸念する人がいる。その危険があることは認めるが、可能性はかなり少ないと思う。ウクライナ戦争でも、原子力発電所に対する本格的な攻撃は行われていない。

(原子力発電所と戦争による破壊の可能性は、解説記事を書いているので参考にしていただきたい。「原発は戦争で壊れない-攻撃、破損のリスクは極少」

再エネは、電源となり得るが、電力は大量に備蓄できず、さらに発電は自然現象次第なので、他電源と一緒にしか使えない。石油では膨大な経費をかけて日本は備蓄を進めてきた。他の電力のエネルギー源についても考えるべきではないか。

残念ながら、国会ではこうしたエネルギー途絶の危機について、議論の形跡がない。メディアも、あまり関心がない。

原子力は有事でも電力を使い続けるための有力な手段

2011年3月の東京電力の福島原子力事故以来、エネルギー・原子力政策は混乱してしまった。今も過剰規制の影響で、稼働の停止が続いている。原発を止める、止めないの単純な議論が続き、複雑なエネルギー問題の議論が深まらず、何も先に進まなかった。

ようやく原子力の活用が昨年から政府の方針になり、冷静な議論もできるようになった。価格抑制、電力の安定供給に、原発を含めエネルギー源を多様化していくことが正解だ。そこで、こうした戦争や経済安全保障の面でも、原子力、その他のエネルギー源にについて、長所、短所の検証をするべきと思う。

この視点で考察すると、原子力は電力を継続して使うために有効な手段だ。その長所を評価して、活用を推進するべきだ。

「汝、平和を欲せば、戦争の準備をせよ」。これは古代ローマから今に続く戦争をめぐる格言だ。戦争が起きないようにするためには、仮想敵国に戦っても無駄だと判断させることだ。通常兵器では、台湾を攻撃しても撃退されそうな状況になっている。そして日本が無資源国という弱点を克服し、エネルギーの面で継戦能力を持つとしよう。中国、北朝鮮、ロシアという危険な国の指導者は日本への侵略にためらうはずだ。戦争の可能性は低下する。

そうした視点からもエネルギーと原子力は考えられるべきだ。原子力、再エネ、また国産エネルギーである石炭、メタンハイドレートへ関心を向け、その活用の可能性を今まで以上に探るべきであると思う。

石井孝明

経済記者 with ENERGY運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

2 件のコメント

  1. やっさん より:

    そのような最悪のシナリオを想定し備えるのが、国政を司る人たちの仕事だ!
    私たちも、自分に何が出来るか、何をすべきかを考えておく必要があるのではないか。

  2. ばとめんばー より:

    台湾有事ともなれば中国の保有する米国債は紙屑と化す。そこの損得勘定を中国はどう考えているのかを、解けぬ疑問として持っています。
    台湾にはF-16のメンテナンス基地があるのです。日本にF-35のメンテナンスベースが設置されたのを見た台湾が、保険として求め実現したメンテナンス基地です。ここへの被害は米国への武力攻撃と当然見なされることになると思うのですが……。

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